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No.2440 出産後1年未満の女性労働者に対する解雇

 男女雇用均等法9条3項は,事業主に対して,女性労働者の妊娠,出産等を理由として,解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと定めている。同条4項は妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は原則として無効としている。男性の育休を奨励している時代にあって,妊娠,育児に配慮しない職場はとんでもないということになる。

 

東京地裁の事例は解雇を否定した

 東京高裁の事例は,ある保育園職員が,園長に対して不適切な言動を繰り返したとして解雇を言い渡された事例だ(R3.3.4判時111頁)。女性は平成29年5月10日に出産し,翌年3月に復職を希望した。ところが平成30年5月9日付けで解雇が言い渡されてしまった。1年未満なので,男女雇用均等法9条4項に違反している。

 

男女雇用均等法は出産後1年を経過しない女性労働者の解雇を無効としています

 雇用均等法9条3項は「妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。」と定める。つまり出産後1年未満の女性労働者を原則解雇することができない。

 

ないことの証明はとても難しい

 条文の「但書」に従えば,解雇が妊娠,出産などを原因としていないことを明らかにすれば雇用均等法9条3項の適用はない。しかし,法律の世界では例外とされた事項を立証することは非常に難しい。つまり,「妊娠や出産が原因ではない」という「ないことの証明」は難しいのだ。

 

もともと解雇は難しい

 加えて,もともと,労働契約法上,正当な理由がないと解雇できない。解雇の正当理由を証明し,さらに,妊娠,出産,育児などが無関係であることまで証明しなければならないので,女性労働者の解雇は難しくなったということになるのだろう。

 

退職者にはきちんと辞表を出してもらうことが紛争予防には大切

 この事件は女性労働者が保育園が発行した退職者一覧に掲載するよう要求したことから,労働契約の合意解約も問題になった。職場内で紛争がある状況下での行為ということから,ただちに退職を承諾したものとは認められないとした。辞表や退職届けなどなく,口頭だけのやりとりだけで合意解約が否定される事例は少なくない。経営社側としては退職の意思の表明をきちんとさせておくことが肝要だ。

弁護士籠橋です。