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№1643 マタハラ(マタニティハラスメント)と企業防衛 その1

№1643 マタハラ(マタニティハラスメント)と企業防衛 その1

 原告は理学療法士だったが妊娠を契機に軽作業に転換され,同時に副主任の地位を解かれた。産休,育休後職場復帰を果たしたが副主任に戻ることは無かった。最高裁はこの点妊娠出産による差別,いわゆるマタハラ(マタニティハラスメント)に当たるとされたのである(H26.10.23判時101頁)。

 労働基準法によれば,妊娠中の女性が経緯な作業を申し出た場合は他の軽易な作業に転換しなければならないとしている。軽易な作業となれば賃金も安くなり,労働条件も悪くなることがある(65条3項)。
 
 しかし,こうした労働条件の低下は不利益取扱となるが,これは男女雇用機会均等法は妊娠や出産による不利益取扱を禁止している(9条3項)。最高裁は妊娠を理由に降格させれば違法であるとしている。

 もっとも,全ての場合に禁止されるかと言えばそうでもない。この場合,本人の「自由な意思」に基づく同意があれば,許容されるとした。原審も同様の考えに立っていた。

 原審は同意があるから降格も許されるとしたが,最高裁は否定した。最高裁の考えは本人に対して一旦降格したらもとに戻れないと説明しなかった,つまり,出産後職場復帰してもポストに戻れないと説明すべきだったとしたのである。この説明がないため「自由な意思」に基づく同意ではないとしたのだ。

 職場の対策としては,この「自由な意思」の意味を吟味することになる。
 最高裁は事業主が「適切な説明」を行った上で承諾したという「合理的理由」が必要としている。

 「適切な説明」であるためには,軽易作業への転換されるに当たって,労働条件にどんな影響があるか,具体的な内容,その程度にわたって説明する必要があるという。最高裁の事例に則して言えば,軽作業に移るにあたって,副主任に降格すること,出産後に職場復帰しても副主任に戻らないことの説明が必要ということになる。

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 まわりくどい言い回しだが,この点,最高裁の判決文は次のように述べている。

「・・・当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」

「そして,上記の承諾に係る合理的な理由に関しては,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置の前後における職務内容の実質,業務上の負担の内容や程度,労働条件の内容等を勘案し,当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たか否かという観点から,その存否を判断すべきものと解される。」

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