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№2481 農産物ギフト取引における納期遅延事故と責任配分

農産物ギフト取引における納期遅延事故と責任配分

東京地裁令和5年7月8日判決(紅まどんな欠品事件)―

 

第1 事案の概要

本件は、柑橘類「紅まどんな」をギフト商品(ギフト広告)として販売したところ、納期内に大部分を出荷できなかった欠品事故をめぐり、卸会社が取引先への損害賠償を支払った後、その支払額を担当従業員に求償した事案である。
 裁判所は、従業員の重大過失を否定し、会社の請求を棄却した。

本件では、1065箱の受注に対し納期内出荷は47箱にとどまり、残余は欠品となった。欠品の主因は、品質安定の遅延と出荷元の選果作業停止にあり、結果として年内出荷が不可能となった。会社は取引先に対する顧客対応費用等を支払ったうえ、担当部長に対し労働契約上の債務不履行責任を主張した。

裁判所は、農産物の性質、業務内容、判断過程等を考慮し、従業員に重大過失は認められないとして請求を棄却した。すなわち、従業員の損害賠償責任は故意又は重大過失がある場合に限定され、本件ではその要件を満たさないとされた。判決は妥当と思われる。

 

第2 判旨

裁判所は、使用者が取引先から損害賠償請求を受けた場合であっても、従業員が直ちに同額の責任を負うものではなく、労働契約の性質上、重大な過失がある場合に限られるとした。

本件では、

  • 品質安定の遅延は予見困難
  • 出荷元の選果停止が直接原因
  • 従業員の判断は従前の経験に基づく合理的なもの

であるとして、重大過失を否定した。

また、農産物という性質や広告の注意書き(天候による遅延可能性)も考慮し、従業員の対応は全体として合理性を欠くものではないと判断した。

 

第3 評釈

1 本判決の意義

本判決の第一の意義は、農産物取引における納期遅延事故を、単純な履行遅滞ではなく、供給不確実性を前提とする事業リスクとして把握した点にある。

農産物は工業製品と異なり、品質・収穫・選果・天候等に大きく依存する。本件でも、品質安定の遅れと出荷元の選果停止という事情が重なり、納期内出荷が不能となった。裁判所はこの点を重視し、担当者の判断を合理的な業務裁量の範囲内と評価した。

従業員責任の成立には重大過失が必要であるという原則は従来から認められているが、本判決は農産物取引の特性を明確に考慮した点で、実務上重要な意味を持つ。

 

2 農産物取引におけるリスク分担

もっとも、本件は本来、複数当事者間の責任分担構造を有する事案であった。

本件の構造は
①卸会社
②ギフト会社(a社)
③出荷元(JA)
④従業員
の関係から成る。

しかし訴訟は「会社→従業員求償」という形で提起されたため、責任配分の全体像は判決に現れていない。

農産物取引は、その性質上、納期・品質・数量の変動リスクが常に存在する。したがって、取引当事者間でこれを分担する契約構造が予定されるべきである。広告にも「天候によりお届け時期が前後する場合がある」との記載があったことからすれば、ギフト会社側も一定の供給不確実性を前提としていたと解される余地がある。

それにもかかわらず、本件では欠品による顧客対応費用が卸会社に全額転嫁され、その後従業員への求償が試みられた。このような責任集中は、農産物取引の実態と必ずしも整合しない。

 

3 a社の責任分担可能性

本件ではa社の責任は争点とされていないが、農業法務の観点からは、納期固定型ギフト販売に伴うリスクの一部は販売主体が負担すべきであると考えられる。

農産物ギフトでは、収穫・品質・出荷時期の変動は不可避であり、完全納期保証は本来的に困難である。長年同商品を扱っていた取引関係からすれば、品質安定時期の不確実性は一定程度予見可能であったとも考えられる。

したがって、顧客対応費用等を全面的に卸側に転嫁することが、リスク分担として適切であったかは再検討の余地がある。

 

4 JA・産地責任

さらに、本件の直接原因は出荷元の選果停止にあった。
もっとも、本件ではJAとの契約関係や数量保証の内容が争点化していないため、判決はこの点に触れていない。

農業取引においてJAは通常、数量確保義務を負うというより、努力義務的な立場にある。しかし、出荷制限や選果停止が事前に予見可能であった場合には、契約上の責任が問題となる余地がある。

本件では訴訟構造上、JA責任は検討対象とならなかったが、実務上は産地側を含めたリスク分担契約の整備が不可欠であることを示している。

 

第4 結論

本判決は、農産物の供給不確実性を踏まえ、従業員個人の責任を否定した点で妥当である。従業員の判断過程は合理性を欠くものではなく、重大過失を認めるべき事情は見当たらない。

もっとも、本件の本質は、納期遅延の責任を個人に帰すか否かではなく、農産物取引におけるリスク配分をどのように設計するかにある。
ギフト販売主体、卸、産地の間で供給不確実性を共同で負担する契約構造を整備しない限り、同様の紛争は繰り返されるであろう。

農産物については不可抗力のリスク分担という観点での契約が不十分であることが少なからずある。農産物特有のリスクを農家だけに負わせるのは不公平であることはあきらかである。

本判決は、従業員責任の範囲を画した点で意義を有するとともに、農産物取引における契約的リスク分担の必要性を示唆するものとして評価できる。