COVID-19の流行で世界はすっかり萎縮してしまった。地球温暖化は進み世界各地で異常気象が発生している。日本も例外ではない。この非常事態の日常化に対して私たちはどのように対処するべきだろうか。当事務所では非常事態に関する法律問題の研究を進めている。
納期が遅れて1億7000万円請求された事例
今日紹介の事例は平成8年の事例だ。被告Bはスキーウェアの材料を提供する業者で原告Aに供給していた。ABは長いつきあいで,それまではお互い連携関係はうまく言っていた。
しかし,平成8年突如ナイロンブームが世界的に発生した。そのおかげで,Bは「希望納期」(契約書上の記載)に材料提供が間に合わなかった。その結果,Aはスキーウェアの納期提供が間に合わず,大量の在庫を抱えた上,顧客との契約も継続できなくなった。Aの主張では損害は1億7000万円ほどになったという。
「希望納期」とは何か
製造業では納期を守るのが当たり前で,遅れたら当然何らかのペナルティがあるし,場合によっては契約を打ち切られる。
本件では契約書上この納期を「希望納期」とされていた。Bが調達する材料は,余裕をもたせて本来必要な時期を前倒しした日を「希望納期」として表現したようだ。判決では希望納期は厳密な意味の納期ではないとした。
納期は確実に存在する
希望納期が法的な意味で納期ではないとしても,Bはそれに接近した時期に納入する契約上の義務がある。本件ではスキーウェア製造に間に合わなかったのであるから,Bは希望納期に接近した時期,Aが必要とする時期に間に合わなかったといえる。
判決はナイロンブームを不可抗力だとした
しかし,判決は国際的なナイロンブームのために,ナイロン染色がまにあわず,Bは材料を提供できなかった点,不可抗力としてBに責任はないとした(新潟地裁長岡支部H.12.3.20.判タ1044号120頁)。
「 納品日が『希望納期』から遅延した主たる原因は折からのナイロンブームといういわば不可抗力であるというべきであり、」「被告の担当者であるSらは、そのような状況のもとで原告担当者であるGらと頻繁に連絡を取り合いながら、『希望納期』からの遅れを少しでも解消すべく善良な管理者としての義務を果たして別表1記載のとおり納品を了したものと認められる。」
この事件の教訓
この事件は「希望納期」という契約上あいまいな表現が使われたことが一つは問題がある。
Bが免責されたのは,国際的に突発したナイロンブームというBの力の及ばぬ現象であったという理由が大きいが,その前提としてBが希望納期に間に合わせようと一定の度余録をしたこと,Aとも頻繁に連絡をとりあっていたことも理由となっている。
つまり,「危機」にあって,Bが考え得る必要な手段を講じていたことを裁判所は「善良な管理者としての義務」を果たしたと判断したのである。