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№2401 自然災害と債務不履行

 台風など自然災害が大型化し,企業では危機管理が問題になっている。コロナ禍も陣地の及ばぬ領域の問題ということであれば災害みたいなものだ。取引をうまく履行できなかった場合,災害あるいはコロナというのはいいわけになるだろうか。

 この問題は法律の世界では不可抗力であったかという形で議論される。不可抗力ということになれば通常は責任はない。しかし,危機管理が甘く,自然災害であっても予見可能であったり,回避可能であったりすれば不可抗力とは言いがたくなる。

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東海豪雨で修理区工場内のお客様の自動車が損壊した事例

 名古屋地裁平成15年1月22日の判決は東海豪雨による自動車被害の事例だ。
 フロントガラス修理のために自動車修理工場に自動車を預けていたところ,平成12年9月11日の東海豪雨によって河川が氾濫し,修理工場は浸水し,預けていた自動車も全損した。所有者は預けたものは返すのが当然ということで,修理工場に対して自動車の価値相当の損害賠償を求めた。

 

東海豪雨だから仕方がない?

 東海豪雨は愛知県尾張地方の人の記憶にもまだ新しい。とんでもない雨が降り出し,道路は川のようになり,いくつかの河川は氾濫した。こんな大災害の中では自動車を運び出そうにも運び出せなかったというのが修理工場の言い分である。
 一方,所有者はそうは言っても,大雨がどんどん降ってきたのだから,浸水被害は予見できたし,早めに運び出せば自動車は助かったはずだというのである。

 

裁判では請負業者の危機管理のあり方が問題になった

 請負業者は他人の自動車を預かっていたのだから,いわゆる「善良なる管理者の注意」をもって自動車を保管する義務がある。大災害であっても,それを予見し,何らかの被害回避行動がなすことができれば,管理義務に違反する。裁判では,まさに災害時における管理者の危機管理のあり方が問題になった。

 

東海豪雨による急激な水位の上昇では避けられなかった

 判決は修理業者の責任を認めず,原告の請求を棄却した。
 「被告には,東海豪雨のように未曾有で大量の降雨をもたらす非台風の豪雨が発生すること自体につき予見可能性があったとは認めることができず,かかる豪雨による洪水に対処するための危機管理体制を敷くことはできなかったというべきである。」 

 

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