社長退任時の退職金はどのように決まるか。
役員の報酬は株主総会で決めることになっている。しかし、役員退職金規程を作り、株主総会で取締役会一任する決議をすれば、取締役会で決することができる。退任時の月額報酬を基準に計算方式を決めるのが通常だ。しかし、「在任中特に重大な損害を与えたもの」に対し、減額できるとする条項が入っていたりする。この損害とは何を意味するだろうか。最近、最高裁の興味深い判決が出されている。
退職金は株主総会で決められます
この事例は、在任中与えた「損害」の解釈が分かれた。退職金規程は株主総会で承認されたから効果を有するのだから、この「損害」の解釈も株主総会決議の意味を解釈することになる。取締役会は株主総会の意思に拘束される(会社法355条)。
本件では3億5000万円の退職金が5700万円に減額されました
事例は規定に従えば退職金は3億5551万円であるところ、在任中に過剰な宿泊費(1610万円)、過剰な交際費(1億0079万円)、文化芸術活動への寄付(2億0558万円)を支出したことから、90%減額して退職金を5700万円とした。これに対して、宿泊費、交際費はともかく、文化芸術活動への寄付を「損害」みるのは違法ではないか問題となった。
過剰な寄付行動も減額理由になるか
原審は文化芸術活動への寄付は「在任中特に重大な損害を与えたもの」とは言えないとして、違法であるとした。
しかし、最高裁は退職金規程に「損害」について特に定めがない以上、「損害」の解釈について取締役会に大幅な裁量権を与えたものとした。その上で、「文化芸術活動への寄付」は取締役会の監査、監視の対象となる行為であるから、これを「損害」とみるかは取締役会の裁量に任されていると判断した(最判R6.7.8判時2617号63頁)。
取締役会の裁量が広いといっても合理性は必要です
もちろん、裁量の範囲と言っても裁量権が適切に行使されているかどうかは審査される。最高裁判決では退職金を決めた取締役会の審議経過、判断材料となった資料なども吟味して、90%減額したことについて違法はないとしている。