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№2410 従業員のミスによる賠償問題

 従業員がミスして第三者に損害を与えた場合,誰に賠償責任があるだろうか。法律上はミスした本人に当然賠償責任があるが,使用者責任と言って,雇い主にも責任が発生する(民法715条1項)。
 使用者責任によって被害者に賠償した場合,使用者が従業員にその分求償できるかと言うとそうでもない。社長としては従業員のミスは会社のミスと割り切る必要がある。

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使用者が賠償しても,それを従業員に請求できるとは限りません

 このように会社の損失が従業員のミスによるものであっても,損失を従業員に全額填補させることは難しい。時には全く求償できない場合がある。仕事によって雇い主は利益を得ているのに,仕事上のリスクを個人が負担するというのは不公平だからだ。従業員が故意,重過失によって損失を発生させない限り,求償するのはかなり難しいと思わなければならない。法律の世界ではこうした使用者の責任を「危険責任」とよんでいる(最判S51.7.8判時827号52頁)。

 

従業員が先に被害者に賠償した場合,使用者に請求できることがあります

 もし,従業員が被害者に先に賠償してしまったら,従業員は逆に賠償金を使用者に請求できるだろうか。最近最高裁がこの問題に決着をつけた(最判R2.2.28,判時2460号62頁)。
 事例はトラックの運転手が勤務中起こした交通事故により被害者を死亡させた事例だ。この運転手は遺族に1500万円を支払った。会社は保険に入っていなかったのだ。そこで,この運転手が雇い主に,支払った分を逆に求償した。

 

最高裁の考え方

 最高裁判所は従業員が先に支払った場合には,使用者である会社に求償できる余地があるとした。それも,「損害の全部又は一部について負担すべき場合がある」というのだ。これは使用者は被用者の労働によって利益を得ているのであるから,仕事に伴う危険も相応に負担しなければ不公平だという「危険責任」の考えに基づいている。

 

事業場生じた事故に対しては使用者も相応に賠償リスクを負担する 

 ちなみに原審は使用者の責任は,本来従業員が負担するべき賠償を代わって行うものであるから従業員から逆に求償できないとした。しかし,利益は使用者に危険は被用者にというのは不公平だ。使用者としては保険に入るなどそれなりに仕事上のリスクを分散させる責任もあるだろう。被害者が使用者に先に賠償請求した場合,被用者に先に請求した場合に差が出るというのも不合理だ。

 

最高裁が示した基準

 最高裁は「使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他の諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という検知から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対して求償することができる」とした。
 

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