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№2455 複数契約の解除

 取引関係が複雑になってくると同じ当事者間でも複数の契約を締結する場合がある。例えばリゾートマンションの区分所有権で不動産売買契約、これとセットでリゾート施設の利用権契約を締結する場合がある。

 

 M&A契約でも、当事者間では株式の売買契約であるが、それとは別に退職金を支払う契約や対象会社との顧問契約が締結されたりする。こうした複数の契約で、一つの契約が他方にどのような影響を及ぼすかについては、法律の世界では複合的契約と解除の関係で論じられている。

 

最高裁判例

 この点では有名な最高裁判決がある。これはリゾートマンション区分所有権を購入したものの、重要な施設であるプール建設がされなかったという事例だ(最判H8.11.12判タ925号171頁)。スポーツ施設を売り物にしたリゾートマンションに肝心のプールがなくてはマンションを買った甲斐がない。そこで、買主は利用権契約を解除すると共にマンション購入契約を解除した。

 

契約が別だと独立して考えなければならない?

 常識的に考えるとプール目当てのリゾートマンションなのだから区分所有権も解除できてもよさそうだ。しかし、マンション売買契約と利用権契約とは別契約だ。本件ではマンション売買契約の契約書中には利用権に関して何も記載されていなかった。そこで、高裁は別契約であることを前提に、売買契約中に何も記載がないことを理由にプールが利用できないという理由では解除できないとした。

 

最高裁は密接関連性などを理由に一体として判断した

 これに対して最高裁は確かに別個の契約ではあるが目的とするところが①相互に密接に関連し、②社会通念上いずれか一方の履行だけでは契約を締結した目的が全体として達成できないと認められる場合には一方の不履行のみで全体を解除できるとした。

 

複数の契約が一体とみられる場合

 最高裁は本件複数の契約は別であることを前提にしている。しかし、相互につながりがある場合には一体とみてあたかも一つの契約のように扱うとしているように見える。このような一体性はどのような場合に認められるのであろうか。

 

 例えば、複数の契約の当事者が違うような場合がある。クレジット契約などは実質的には売買代金の借り受けなのだが、代位弁済との組み合わせで成り立っている。

 

 M&Aでも株式の売買契約と退職金契約、さらには顧問契約と複数の契約から成り立っている。基本的に当事者が異なると別契約とされるだろう。しかし、M&A契約では、対象会社と売主との間で退職金や顧問契約が締結される。このような場合では、売ったあとなので売主と対象会社は同一視されてもしかたがないかもしれない。