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№951 他人物売買追認の効果(弁護士向き)

№951 他人物売買追認の効果(弁護士向き)
 今日は法律家向けの記事です。
 これはかなり難しい議論で、弁護士向きですね。司法試験をめざすロースクール生のみなさんは読んだ方がいいかな。

 他人の所有物を第三者が勝手に売ることはできる。というと驚いてしまうかもしれないが、私たちの世界ではこういう場合、他人物売買と呼んでいる。他人の物の売買でも契約としては有効だ。売主としては所有者から所有権を取得して権利を移転させる義務を負う。

 ところで、他人物売買の場合、追認と言って所有者がその売買を許容すれば権利を買主に得させることができる(最判S37.8.10判時314.19頁)。買主には権利が移るので、買主は売買代金を支払わなければならない。

 問題は売買代金は誰が受け取るべきかということになる。
 最高裁は追認の効果を認めるのであるが、この場合民法116条を類推適用している。この民法116条というのは無権代理行為の追認と言って、勝手に第三者代理人になって契約した場合、第三者がこれを後から承認されれば有効となると言う条文だ。この条文の仕組みを当てはめれば、他人物売買の場合、売買代金は真の所有者に払ってもよいように思われる。

 ところが、法律は簡単ではない。
 他人物売買契約の契約内容を観察すると買主にとっては売主はただ一人だ。真の所有者の存在を知らない。この人から買いたいと思って買ったという経過がある。売買代金が少し遅れてもこの人なら待ってくれると思ったかもしれない。この人に対して債権あるので売買代金と相殺ができるかなと思ったかもしれない。こうした売主に対する期待は尊重されなければならない。

 つまり、契約社会では誰が当事者かというのは大問題だ。契約で当事者が決められている以上、買主の契約内容に対する期待、買主が現に契約を結んだ人であるという期待は保護されなければならない。そこで、追認によって確かに買主に権利が移るのであるが、だからと言って売買契約が所有者と買主の間に成立するわけではない。契約はあくまで他人物売主と買主の間の契約でしかない。法律用語を使うと、追認は売主の処分権を補充したに過ぎず、契約上の地位が移転するわけではないということになる。

 この点は近時の民法改正でも問題になっていたが、近時最高裁の判決が出された(H23.10.18、判時2134号58頁)。判決文は次のように言っている。
「無権利者を委託者とする物の販売委託契約が締結された場合に、当該物の所有者が、自己と同契約の受託者との間に同契約に基づく債権債務を発生させる趣旨でこれを追認したとしても、その所有者が同契約に基づく販売代金の引渡請求を取得することはできない」