土地取引をする場合、土壌汚染がどうしても気になる。土地の経歴から見て有害物質汚染がないというだけでは安心できない場合がある。法整備のない昭和20年代から50年代にかけての廃棄物処分場跡地だったり、自然由来の有害物質というのも存在する。
土壌中有害物質がある場合、環境法からは土壌汚染対策法という法律によって規律されている。有害物質といっても様々で水に溶けて害を及ぼす場合、呼吸や皮膚に接触して害を及ぼす場合とさまざまなだ。環境省ではこうした物質の特性にあわせて環境基準を定めている。
ある学校法人の事例
学校法人AはBより中学校及び高等学校の新校舎建設のため、甲土地を約37億円にて売買する旨の売買契約を締結した。売買契約にはいかの特約条項が存在した。
(特約条項(抜粋。以下「本件特約条項」という。))
売主は,引き渡しまでに対象土地の土壌汚染調査を実施し,土壌改良が必要な場合は売主の費用で改良を行う。既存建物の建築エリアについては,既存建物解体後,売主の費用で買主が調査を実施し,土壌改良が必要な場合は,売主の費用で買主が改良を行う。
同特約に従いBは土壌調査を行ったが、本件土地の使用履歴から特定有害物質の使用履歴が確認されなかったことなどから本件土地に特定有害物質が存在する可能性は低いと結論づけていた。代金支払いを済まし、本件不動産の引渡を受けた。
ところが、引渡直後建物建設に先立って新校舎建設会社が土壌検査したところ,土壌溶出量基準値を超える鉛、ヒ素が検出された。しかし、土壌含有量基準値を超えることはなかった。しかし、学校としては放置できないので、汚染土壌の掘削除去を行った。そこで、土地の欠陥があったとしてAは土壌汚染調査費用に要した5000万円、土壌掘削除去に要した3億円、合計3億5000万円を本件特約条項4項に基づきBに請求した。
土壌の環境基準を一応上回っていた
土壌溶出量基準は土壌に含まれる特定有害物質が溶け出し、地下水等から飲用水にともなって間接摂取しても問題ないレベルとしての基準であり、土壌含有量基準は土壌に含まれる特定有害物質を経口又は皮膚より直接摂取しても問題ないレベルとしての基準である。Aの新校舎では地下水が使用されることはない。土壌含有量基準を超えないため本件土地は要措置区域相当とはいえないが、土壌溶出量基準を超えるため、形質変更時届出区域相当の土地であった。要するに要措置とは危険な土壌なので今すぐ何らかの措置をとらなければならない土地であり、形質変更時届出区域というのは今のところ何もないでそっとしておく限りほっといてもよいという意味だ。
裁判ではどうなったか
裁判では特約条項にいう「土壌改良が必要な場合」に本件が該当するか争点となった。学校側は学校という特別な性質上少しの有害物質は許されないと主張した。しかし、裁判所は土対法上、当面何もしなくてもよい土地ということであれば、掘削除去まで必要はないとして、調査費用だけは認めたが掘削除去費用を認めなかった(大阪地裁R3.1.14判決、判時 2495号66頁)。
「土壌改良が必要な場合」に契約書上明確な定義を示しておけばこんな裁判にならずにすんだ。