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№1243 不良従業員に対する求償

№1243 不良従業員に対する求償
 どんなに良い経営をしていても、不良従業員というのが発生することがある。他の従業員とけんかし、殴り、怪我を負わせることもある。従業員の業務上の不始末で、他人に損害を与えた場合、使用者は賠償責任を負う(民法715条)。

 ところで、民法715条3項によると、使用者が従業員の不始末で他人に賠償をした場合、会社はその従業員に対して求償、つまり賠償を請求できるとしてる。例えば、従業員が人を殴って怪我をさせ、会社が使用者として200万円支払ったとすると、会社はその従業員に200万円支払えと言えるということになる。

 名古屋地裁H24.12,20判決(判時2191号63頁)ではこの理を認め、同僚を殴って怪我を負わせた不良従業員に対し、会社が賠償した全額の支払いを命じた。裁判所は従業員の犯罪行為は許さないとしたのである。

 しかし、これがいつも通用するかというとそうでもない。
 というのは、業務上常に他人に危害を与える可能性がある業種はある。少しの操作ミスで人に大きな損害を与える場合もある。例えば、株の売買ミスで顧客に1億円の損害を与えた場合、会社は責任を負うが、その全てを従業員に負わせるのは酷だ。

 従業員は業務でリスクの伴う仕事についている。リスクに見合う給料をもらっているかと言えばそうでもない。リスクのつきものの業務で会社は利益を受けている。利益は会社にリスクは社員にというのではいかにも不公平だ。

 そこで、判例は従業員に対する求償権を制限している。ときには請求を認めないこともある。

 少し長いが最高裁は次のように言う。
「使用者の事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる程度」において求償することができる(最判S51.7.8判時827号52頁)。