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№2307 顧客要望の設備投資と発注責任

№2307 顧客要望の設備投資と発注責任

顧客から設備投資の要求があっても,自己責任
 顧客などから一定の生産を発注するから是非体制を整えてほしいという強い要望がある場合がある。かなりの生産量が見込めるから伝えられと高額な設備,人員の配置など行うことがある。

 この場合,期待された生産量の発注がなかったとしても,それは経営者の自己責任としてかたづけられるのが原則だ。

しかし,例外がありますが難しい判断です
 例外的に契約上一定の定めをした場合(もしくはそれに近い強い信頼関係が生じるような場合)は別だ。
 この例外をめぐって東京地裁(H29.3.15)は原則通り自己責任とし,東京高裁(H29.11.30判時2397号14頁)は一定生産量を確保する努力義務があったとして,努力義務に法的責任を認め賠償請求を認めた。認容額は5900万円である。

相手の身勝手な要求を飲まざる得なかった
 A社は子供服販売業のB社の要請で上海工場を設立した。上海進出後B社は今度は新生児服については日本で生産したい,A社国内工場をB社国内専用工場すると要望した。身勝手な要望だが,大口顧客に対しA社は要請に応え,国内生産を再開すべく設備投資し,国内生産縮小に伴い解雇した従業員を呼び戻すなどした。

発注量は約束の3分の1しかなかった
 ところが国内工場稼働してみると発注量が3分の1というものだった。これに対してA社は発注する約束があったとして3年分受注していれば得られた利益について損害賠償請求したのである。

決め手は契約条項
このとき,当事者間の契約には次の条項が存在した。

「生産委託規模は一年間で数量6万枚,金額1億5000万円を目安とする。なお,被告は一年を通じて可能な限り平均的に委託し,閑散期の生産に配慮する事とする(3条1項)」

「B社は,A社が負担する工場設備に対する先行投資費用や従業員の雇用に伴う責務等に考慮し,信義誠実に従い,合理的な理由なく委託規模が著しく縮小することのないよう努力するものとする」

「契約の有効期間は,平成21年8月1日から平成24年7月31日までの3年間とする」 

東京高裁の判断内容
 売上の見込みは時の運のようなところがあって,発注を義務づける条項を付する交渉はかなる難しい。東京高裁はこの点,発注義務は認められないとした。

 しかし,交渉の経緯からして,B社には「初期投資費用を回収し,採算を維持することが出来るよう配慮すべき契約上の付随義務を負う」とし,B社にその配慮義務の立証責任を負担させた。つまり,努力したという事情はB社に認められないとした。

 なお,賠償額はB社国内工場3年間の営業損失分をもって賠償額とし,受注したら得られたであろう逸失利益は否定された。


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