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№2411 認知症と意思決定

 高齢者の認知症では加齢と共に脳に障害が生じ,徐々に認知機能が低下していく。判断力や意志力も低下する。長年つれそってきた長男夫婦に対して,突然腹を立て,そこに嫁に行った妹が登場して,お母さん,お父さんを連れ出したあげく,施設に入れ,さらには遺言書をかかせて財産を根こそぎ奪ってしまおうという例も珍しくない。こんな場合,「意思能力」がないとして,法律上は遺言無効を争うのであるが,そもそも意思能力とはどのように判断されるのであろうか。

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認知症とは

 認知症とはアルツハイマー認知症やレビー小体性認知症,血管性認知症などがある。記憶障害,失語,失行,失認,見当識障害,実行機能障害など認知機能が並行的に傷害され,その結果,特異な行動,心理症状が起こる。認知機能が害されることによるストレスや不安,それが原因となって生じる問題行動は周辺症状と言われたりしている。

 

判断能力がないままの行為は無効です

 認知症の進行により判断能力が無くなり,法律上は「意思能力」がないと判断され,遺言や贈与,売買といった法律効果を生み出す行為は無効とされる。しかし,認知症というのは加齢と共に徐々に進行することや,認知能力の低下も各認知能力が同時並行的に,かつ不統一に進行すること,判断能力も当人の環境の変化,同伴する家族,判断対象の重要性,複雑性によって左右されるために,意思能力の判断は非常に難しい。

 

判断支援という考え方

 認知症高齢者の意思決定について,厚労省は平成30年6月,「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」を発表し,「認知症の人」自己決定権尊重のあり方について提言している。それによれば「本人の意思決定能力は、説明の内容をどの程度理解しているか(理解する力)、またそれを自分のこととして認識しているか(認識する力)、論理的な判断ができるか(論理的に考える力)、その意思を表明できるか(選択を表明できる力)によって構成されるとされる。」と分析する。

 

判断能力有無の難しさ

 認知症における意思決定能力は,あるかないかの二者択一関係にない。本人の意思決定能力は行為内容により相対的に判断される。日常生活・社会生活の意思決定の場面は多岐にわたり、選択の結果が軽微なものから、本人にとって見過ごすことのできない重大な影響が生ずるものまである。また,認知症の状態だけではなく、社会心理的・環境的・医学身体的・精神的・神経学的状態によって変化するという特徴を持つ。

 

妄想的な判断をする場合があります

 このような認知症における意思決定能力が低下している中,本人の意思決定能力は本人の個別能力だけではなく、意思決定にかかわる支援者によって変化することに注意すべきである。意志の力や判断能力が低下しているため,偏った情報を安易に信じたり,記憶が脱落した状態で誤った判断をしたり,合理的な思考ができないことから一度誤った判断をしてもそれを修正できなかったりする。住み慣れた場所から転居したり,周辺に知らない人がいたりすることによっても判断能力が低下する。

 

能力有無の判断要素をどうしたらいいだろうか

 こうした,認知症の特徴をもとに,私たちは法律上「意思能力」を有するか否か判断しなければならないのであるが,困難をきわめる。裁判上も公正証書遺言であったとしても無効とされる事例は少なくない。結局次のような要素を考慮して決めることになるのではないだろうか。
  ① 医学的みた認知症の進行の程度
  ② 認知症の症状を示す患者の日常生活のエピソード
  ③ 当該法律行為の複雑性,重大性
  ④ 法律行為した時点での患者のおかれた環境
  ⑤ 法律判断をした際の意思決定援助者(利害関係の程度)
  ⑥ 本人,意思決定援助者の持っている情報

 

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