№2258 老害の排除:熟して尊敬を得る秘訣
ロッテグループ創業者解任劇
平成27年7月,ロッテグループの取締役会は創業者を代表取締役から解任する決議をした。これは創業者の息子Aが創業者の高齢による判断能力の低下を利用して人事権を濫用し,会社に混乱をもたらしたためだ。これは取締役会決議無効の裁判として争われた(東京地裁H29.4.13判時2378号24頁)
高齢化した創業者を親族が利用し始めた
当時,創業者は93才であった。普段は韓国の居住し,車椅子を使って移動していた。Aはどうも素行がよくないようで息子だが取締役を解任されていた。この解任に不満を持ったAが老いた父親を利用して社長の椅子を狙ったのだ。Aは突然父親を連れて本社を訪れ,会社の会議室を占拠した上,社内ネット上にAが構想する人事を発表するなどの暴挙に出た。そこで,創業者が社長であるかぎり会社の混乱は避けられないとして上記の解任劇となった次第である。
取締役会は秘密かつ電撃的に行われた
創業者を解任する取締役会は会議前日に電子メールで招集が通知された。
通知は平成27年7月27日午後11時30分に発せられ,会議は翌日午前9時30分に開催された。これはかなりひどい。おまけに創業者は93才の高齢者で実質的に経営にほとんどタッチしていないため取締役会の動きなど知るよしもない。パソコンも見ない。
裁判所は電撃的取締役会を違法とした
さすがに裁判所もこれでは招集通知とは言えないと判断した。通知は一般的には本人が見なくても本人の了解可能な状態に置かれれば通知が完了したものとみなされる。しかし,こんなひどい状態では通知とは言えないとして招集手続に瑕疵があるとした。
会長が出席しても結果は変わらないので取締役会決議は有効とした
しかし,創業者を解任しようという各取締役の意思は強固で,仮に創業者が出席していても事態は変わらないと裁判所は判断した。特にAが創業者を利用して極めて粗暴な行動に出ていた事情を重視し,「取締役会において相当に強い影響力を有していたことなどを考慮しても」「結果に影響がない」と判断した。
結果に影響しないなら,別に創業者の出席を阻止する行動に出なくても良さそうだが,創業者はともかく、Aの粗暴な行動を阻止する必要があったのだろう。最高裁も取締役会に手続上の瑕疵があったとしても結果に影響がなければ決議は有効になるとしている(S44.12.2)。
高齢者は高齢者にふさわしい行動が求められる
高齢化した社長が判断能力が低下したことをいいことに親族がこれを悪用して会社を混乱させることは決して珍しいことではない。取締役会による解任ができなくとも,職務停止を求める訴訟や仮処分ぐらいは可能だろう。
もし,親族がしっかりして分を守って入れたば,ロッテグループ会長も偉大な創業者として末永く尊敬を勝ち得ていたことだろう。
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