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№2407 協調性ない社員の解雇

 協調性がない,能力が欠如する,会社としては解雇せざる得ない場合がある。しかし,法律上解雇は大きく制約されているため,解雇の判断は非常に難しいものとなる。不行跡が際だっているような場合には本人も納得しているので辞表提出ですむがあいまいな事例があるため,顧問弁護士などとよく相談した上で対応する必要がある。

 

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解雇には厳しい制約があります

 労働契約法16条は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」でなければ解雇できないとされている。この合理性,相当性はかなり厳しい。終身雇用が広く行き渡っている日本社会では,解雇は人生に重大な影響を及ぼすため他国に比較して解雇の制約が大きいと言われている。

 

課長職の作業能力が低くかつ協調性を欠くとされた事例
 この職場は保険事業などを担当する16人程度の小さな職場であった。そこのA課長についてはある時期から事務処理能力が低下し,初歩的ミスを繰り返す,そのために事業所の信用が毀損されたほか,その対応のために同僚の負担が増加していた。しかし,反省がなくまわりに迷惑を欠けている意識が乏しく,教育指導の効果が見られない状況にあった。

 

解雇通知
 こうした事態に,会社は何度か減給,注意など繰り返したが改善しないため,「貴殿は,職員として求められる能力や適性を著しく欠いており,改善の余地もないため,就業規則25条7号に基づいて解雇を行ったものです。・・・・」

 

裁判地裁労働者勝訴,高裁経営者逆転勝訴

【地裁】

 裁判ではA職員の問題点は細かく挙げられた。地裁はその多くの事実を認めているが,各問題点がいずれも解雇しなければならないほどのものとは言えないとして,解雇を無効とした(東京地裁H.26.4.11,労判1122号47頁)。

【高裁】

 これに対して高裁では,長年にわたってミスを繰り返したと認定した上,「被控訴人はプライドが高く円滑な職場関係を築けない,未処理案件を滞留させても他の職員に依存する傾向にあり,周囲に迷惑をかけているという意識がないなど指摘されていた」と認定し,「従業員として必要な資質・能力を欠く状態であり,その改善の見込みも極めて乏しく,控訴人が引き続き被控訴人を雇用することが困難な状況に至っていた」と判断し,解雇を有効とした(東京高裁H27.4.16,労判1122号40頁)。

 

小規模事業者の場合,職場対応に限界がある

 本件は上告受理申立がされたが,不受理となっている。この事例では事業規模が「従業員15名ほどの小規模な組織」であった。規模が大きければ従業員の雇用能力にもそれなり幅があるが,小規模の場合に柔軟性を求めるには限界がある。高裁判決はこうした点を考慮したのではないかと思われる。類似判例に(東京地裁H28.3.22,労判1145号,地位保全認容,同事件控訴審東京高裁H28.11.24,労判1158号140頁,地位保全棄却) がある。

 

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