№1839 障害者の雇用と安全配慮
障害者の権利に関する条約が2014年に批准された。それに伴い障害者雇用促進法なども整備され、事業主に、障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置を講ずることが義務付けられている。
中小企業においても障害者を雇用する企業は少なくない。
障害者には障害があると言っても、それは人の個性の一つにすぎない。早く走れる人もいれば、そうでない人もいる。障害も特別なものではないというのは昨今の考え方だ。
しかし、一方で障害者が安全に働けるだけの配慮は必要だ。企業が人の個性に合わせた配慮は求められている。もっとも、人的、物的資源の乏しい中小企業にあっては障害者に対する配慮は簡単ではない。
たとえば、知的障害者の場合、一般的には判断能力に乏しく不測の事態に対する対応能力に劣る部分があることから特有の難しさがある。
小西縫製工業事件は年末休暇中の寮の火災により精神薄弱(知能検査10才程度)の従業員が焼死した事件だ。昭和53年の事件だが、障害者に対する安全配慮義務の内容について一審と二審で判断が分かれ、知的障害者を持つ労働者に対する安全配慮義務とは何かを考える上では重要な判例となっている。
火災に際して適切な誘導をなすべきであったか争点となった。
控訴審は労働者の具体的状況に応じて安全配慮する義務があるとした上で、
「精神薄弱者は正常者に比較して判断力、注意力、行動力が劣るものであるから、会社施設の火災など不測の事態が発生したような場合、それが仮令休暇中当該寮から発生したものであっても、精神薄弱者の生命、身体を危険から保護するため、その精神薄弱の程度に応じた適切な方法手段によって安全な場所に避難させ、危難を回避することができるようにする安全配慮義務があるというべきである。」
この点は一審も同じで、一審は被害者の知的状況からすれば、「火災の現場である工場内から出口を指さし外に出ることを指示」するだけで「安全な場所に誘導すること」をせず、その後も無事退去したか安全確認していない点をとらえて会社の責任を認めた(京都地裁S58.1.31労判419号32頁)。
結局、配慮と言っても障害の具体的内容をどこまで把握し、点検するかということにつきてしまう。顧問弁護士と相談する場合、こうした判例をいくつか紹介してもらい、配慮の程度がどこまで要求されているか自社に当てはめるよりほかはない。
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