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№2408 うつ病で自殺した事例

 うつ病と分かって採用することがある。うつ病という言葉は一般的だが実際のところどうなのだろうかと迷う事が多い。精神科医でも判断が難しいところを事業者側が判断するというのは酷な場合がある。実態が分からず怠け者と言ってみたりするとNGだし,かといって頑張れ,期待していると言ってもNGだだし,と頭を抱える問題は多い。

 

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障害者雇用枠労働者が自殺した事例

 紹介の事例はうつ病ということで障害者に認定されている者を採用した事例だ。この事例で特殊なのは仕事を十分に与えなかったことが違法かと争点とされた。判決ではこの点では違法はないした。(札幌地裁R1.6.19判事2447号)。

 

 判決によると,労働者Aは障害者雇用枠で採用された。職場では当初は書類の整理,清掃などの仕事から始まった。その上で仕事に徐々に慣れてきてAは徐々に仕事を増やしてと要望していた。その能力に見合った業務を与えない場合,労働者に屈辱感を与え,心理的負荷となることはありえることだ。例えば,罰則的に草むしりばかりさせるとかすればそれは不当労働行為となるだろう。

 

対話によって解決策を見つけるべき

 判決文で注目するべきは,Aから相談があったときに,仕事量について具体的に検討して実施できないときはその旨を説明するべきだとした点だ。Aの「心理的負荷に対する脆弱性」が高まっている場合に相応の対応と説明を経て現在の対応を決めるべきということになる。この点,会社はAとよく相談した上で「速やかに具体的な解決策を検討し,実際に実行していたといえる」と判断した。

 

何気ない言葉で傷ついてしまう難しさがある

 裁判ではAを雇用したのは「障害者雇用率をアップさせるため」と発言した点,Aの存在価値に疑問を投げかける言葉であるとした。この点,Aの「心理的負荷に対する脆弱性」が高まっている場合の発言としては不穏当で注意義務違反があると判断している。しかし,この心理的負荷と自殺との因果関係は否定し,Aの請求を棄却している。うつ病患者の状況は本人しか分からないところがある。私から見ると,このような言葉で注意義務違反を認めることには疑問がある。

 

 障害者雇用に関する判例
 東京地裁H29.11.30.(いなげや事件)
 静岡地裁浜松支部(H30.6.18労判1200,69頁)
 
 障害者雇用基本法19条2項
 事業主は、障害者の雇用に関し、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の機会を確保するとともに、個々の障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならない。

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