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№2412 新型コロナウィルスに対する院内対応

 新型コロナ感染防止と医師,看護師,技師など医療現場職員の安全との関係は法律上どのようになっているのでしょうか。病院職員に予防接種を義務づけることもできるのでしょうか。

 

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院内感染により疫病となった場合は労災となります

 医療現場に従事して疫病に感染した場合には業務起因性が認められ,労災となります。また,雇用契約に付随して病院,医院などには安全配慮義務があります(労働契約法5条)。労働安全衛生法では職場の安全に関する規則が罰則によって担保されています。医療法は病院・診療所等の設備,人員が適切に配備されていることを求めています。

 

院内検査に必要な化学物質により過敏症になった事例
 例えば,病院に勤務していた看護師の原告が、検査器具の洗浄時に使用する消毒液に含まれる化学物質(グルタルアルデヒド)の影響で化学物質過敏症に罹患したことについて,マスクやゴーグルなどの防護具着用措置をとらなかったとして,安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求を認めた事例があります(H18.12.25大阪地裁判決)。

 

放射線量に過剰に暴露された事例
 労働安全衛生法関連では「放射線技師に法定基準(皮膚に受ける等価線量年500ミリシーベルト)を超える被ばくをさせたとして、医療法人ほか1名を労働安全衛生法第22条(放射線による健康障害防止措置)など違反の疑いで送検した。」という事例があります。

 

新型コロナについても,病院,医院としては感染リスクから職員を守るという安全配慮義務という視点からも検討されなければなりません。
 厚生労働省は医師,看護師など医療従事者が新型コロナウィルスに感染した場合は原則として労務起因性を認め労災扱いにしています。さらに,病院として感染防止措置を怠ったとされれば,職員に対する安全配慮義務違反ということにもなります。

 

 新型コロナが発生して1年がたち,マスクの着用や共用部分の消毒,飛沫防止のため遮蔽措置といった具合に感染防止措置についてもほぼルール化されています。感染の疑いのある職員に対しては休業措置とる必要がある場合もあります。こうしたルールを尽くしていない場合には安全配慮義務違反となりうることになります。

 

予防接種の義務づけレベルは我が国では低いです
 ところで,新型コロナウィルスについては,ワクチン接種が始まろうとしています。医療従事者が優先される見込みです。日本の場合,予防接種による副反応が大きな社会問題になった歴史があるため,予防接種に対しては慎重になっている傾向にあります。予防接種法においても定期接種対象のA類については接種努力義務という言葉で表現されています。それ以外のB類についてはこの義務すらありません。

 

新型コロナウィルスワクチンも強制はできませんが,接種機会は作る必要があります。
 新型コロナウィルスワクチンについては,法的に義務づけがない状況下では,職場の安全を守るためとは言っても接種を義務づけることはできないでしょう。

 しかし,職場の安全を守るため接種の機会を設ける必要はあるとは言えます。例えば,ワクチンが優先的に支給される状況下であえてそれを受け取らなかったりするよう場合には安全配慮義務から言って問題となる可能性があります。

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