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№2241 名誉毀損広告による賠償

№2241 名誉毀損広告による賠償

 週刊誌広告に「猛毒米偽装」と記載された事件について,ある大手総合スーパーを営む会社が出版社を訴える事件があった(東京高裁H29.11.22判タ1453.103)。

信用毀損に対する損害はかなり小さい
 スーパー側は1億5000万円の賠償請求し,第1審は2500万円の範囲で認容した。さらに,第2審は減額し,110万円の範囲で認容した。あまりにも低い金額なので,スーパーはさぞやがっかりしたことだろう。

何が名誉毀損だったのか
 本件はコメの卸売り業者が国産米と偽って中国産米のコメを混ぜて売り,それをスーパー側がおにぎりやお弁当として販売したという事件だ。

週刊誌はそれをとらえて,中国米=猛毒米,それを「偽装」と表現した。広告だけから見れば,産地偽装というよりは,猛毒を隠したと読める。スーパー側からすれば,そもそも自分が偽装した訳でもないので,こういう広告は困ったものだということになる。

どうして賠償額が小さいのか
 裁判所もこの広告は違法だと捉えた。問題は賠償額ということになる。
 東京高裁が非財産的損害を110万円としたのは,広告自体猛毒を偽装したと誤認させるおそれはあるものの,違法性の程度は小さいと判断したためだ。また,裁判所の価値観として表現の問題は表現によって言い返せばよい,むやみに賠償を認めると自由な言論を抑圧するというものがある。

名誉毀損による売上減少は原則認められない
 また,スーパー側は,この広告のおかげで,売り上げが売り上げが平年より8.8%減少したととらえて,売上げ減を考慮した賠償額も請求した。これは逸失利益とよばれるもので認められるのが非常に難しい。裁判所もおにぎりなどの売りあげの変動は季節や天候の変更にも左右されるので一概に広告のせいとは言えないとしている。

裁判所は名誉毀損部分を削るよう命じた
 本件では裁判所はウェブサイトの広告中,「中国猛毒米」のうち「猛毒」を削るよう命じている。

被害者が中小企業であれば別の結論だったかもしれない
 この事件は大企業対大企業の事件であることや,産地偽装自体は農林水産省がプレスリリースしておりすでに世間に知られていた。こういった事情がかなり考慮されているように思う。被害者が中小企業で反撃力が小さいような場合には違った判断もあったろう。

裁判するだけで目的を達していたかもしれない
 そもそも,本件では1億5000万円の請求をしているが,ちょっと無理な感じもする。ひょっとしたら,裁判することで,スーパー側の正当性を世間に知らせる効果とか,出版社に対する制裁であるとかを狙ったのかもしれない。そうであるなら,少額でも勝訴した価値はある。

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