№2334 パワハラはどこまで違法なの?
上司の厳しい指導によって自殺に追いやられた事例がある。雇用関係にあっては指揮命令関係があるため、上司が部下を指導し、その過程で強い口調になることは時には必要だ。これを単純にパワハラと呼ぶことはできない。本件はそうした限界事例の一つだ。
1. パワハラとは何か
パワハラとは、「同じ職場で働く者に対して、職上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務上適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為又は職場環境を悪化させる行為」と定義されている。
厚労省は暴行・傷害(身体的攻撃)、脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)、隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)など6類型に分けて、注意を促している。
厚労省→ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126546.html
2. 本事例は郵便局株式会社のできごとだ。
被害者Xは記名国債の振替預入請求業務などを行っていたが、Xはミスが多かったようだ。
そのため上司は強い口調で「ここのとこって前も注意したでえな。確認せんかっったん。どこを見たん。」「どこまでできとん。何ができないん。どこが原因なん」など強い口調で叱責していた。Xは職場を地獄だと表現し、関係者にも辞めたいと言うようになっていた。
3. 問題の予兆はあった
上司が部下をひいきしているなどという投書が会社にあったが特別な対応はなかった。同僚が上司に「Xさんが死にたいと言っているんですけど。」と知らせたが、「ほんまに死ねるわけがない」「そんなん冗談で言いよんちゃうん」などと真剣に受け止めなかった。しかし、Xの体重は激減し、体調不良にもなってき、自殺するに至った。
4. 遺族の賠償請求
この事件では徳島地裁は次の理由で叱責行為は違法であるとはしなかった(徳島地裁H.30.7.9判時2416号92頁)。
「部下の書類作成のミスを指摘しその改善を求めることは、・・・主査としての上記両名の業務であるうえ」、Xに対する叱責が継続したのはXにミスが連続したためであり、が「何ら理由なくXを叱責していたような事情は認めらない。」
上司の「発言内容は・・・Xの人格的非難に及ぶものとはまではいえないこと」から、「業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものであったとは認められない。」
5. しかし、賠償責任は認められた
上司の叱責が違法であるとはいえないとしたものの、自殺に追いやる前に職場は十分な対 応をしていなかったとして、経営者としての安全配慮義務違反は認め、6000万円の賠償を認めた。
6. 判決はパワハラに対して甘いように思う
本件事例は自殺に追いやられた事例で、業務の範囲、人格的非難に及んでいないとして違法性は否定した。しかし、継続的に叱責して入れば精神的に追い込んでいくことは明らかであろうし、おそらく周りから見てもかなりつらそうな状況にあったのではないかと思う。裁判所は少し甘いような気がする。