顧問先にうつ病対応の考え方について説明を求められたのでこんな文書を作ってみました。
実際の,説明書には青色での強調はありません。
■ 株式会社 御中
平成30年6月14日
名古屋E&J法律事務所
弁護士 籠 橋 隆 明
1. うつ病には2つの問題となる場面があります。
② 仕事をしない口実として出てくるうつ病
2. うつ病にともなう企業の責任
加重なノルマを課せられて残業が繰り返され,社員に心身の疲労が溜まる場合があります。著しい場合は心臓病や,脳卒中が生じることもありますし,自殺に追い込まれることもあります。さらにはパワハラやセクハラなど,上下関係を利用していやがらせを受ける場合,逆にモンスターな部下が執拗に上司に食い下がるような場合,精神的なダメージを受けてうつ病になる場合があります。
こうした場合は,職場に出られない,退職する,職場の雰囲気が悪くなるなど会社にとってダメージが大きいです。ひどいいじめの場合は会社が訴えられたりします。会社には安全配慮義務と言って,職場環境を健全にする義務があります。こうした場合の賠償金額ですが,重篤な病気や,自殺などの場合は数千万円の賠償金なることもあります。精神的苦痛を受けたというような場合,50万円とか100万円とか小さい金額の場合もありますが,裁判のために部下から事情を聞いたり,社長や管理職が法律事務所に行って打ち合わせたり,さらには裁判所に行って証人尋問するようなことになりますと,会社にかかるストレスはとんでもなく大きいです。
3. 仕事をしない口実として使われるうつ病
うつ病というのは,心の病なので本人の言っていることをまず本当だと受け止めて診療が始まります。血液検査とかレントゲン検査がある訳ではありません。そのため,本人が眠れない,心臓がドキドキする,死にたい気持ちになるなどといい,職場ではいじめられているなどと医師に話しますと,たいがい医師はうつ病と診断してしまいます。このうつ病が労務に起因して生じたものであれば,労災と認定されてしまいます。
労災となれば,労基法上解雇はできません。たとえ,それが本人の落ち度でしょうと,場合によって懲戒事由があろうとも法律上解雇できません。本人から事情を聞こうにも,仕事の話をするとうつ病が悪化するなどと言われて調査もできないという事態もあります。こうなると経営者としてはかなり困った事態となります。
いつ職場復帰するかわからない社員を待たなければなりません。労災中とは言え,社会保険料は発生します。労基署への書類の提出も求められたりします。仮病ではないかという不信感が,経営者の怒りを増幅させます。
4. うつ病対策が必要となります
1) 早期に対応
本当にうつ病にかかっているときには本人の雰囲気が悪いのですぐにわかる場合が多いです。言葉に張りがない,ぼやきや悲観的なことを言う,遅刻が多い,痩せてきたなど中小企業であれば,社長や同僚が異常を察知することが多いです。
こんな場合は,早期に本人に直接あたることがよいと思います。本人の悩みをちゃんと受け止め,聞き届け,会社は守ってくれるという信頼を得ることが必要です。セクハラやパワハラがあれば,社内で事実を正確にし,管理者に対してしかるべき対応が必要です。
2) 就業規則の整備
就業規則の整備も必要となります。
うつ病は本人の訴えによって判断されるため,本当に病気かどうか,どの程度の病気なのかわかりにくいです。そのため,会社が本人以外から直接情報を得ていく必要があります。しかし,心の疾患の場合はプライバシーが特に重視されてしまうので情報収集の壁はけっこう厚いです。
そこで,就業規則によって,情報収集の条項を整備しおく必要があります。例えば,主治医に調査できるようにしておくとか,本人に別の医師にかかるよう命じることができるとか,聞き取りなどの調査ができる権限を持つ必要があります。それでも,なかなか難しい疾患です。
3) 職場復帰や解雇のルール
うつ病がひどく,職場復帰が困難であれば辞めてもらうしかありません。しかし,そう簡単に解雇できるものではありません。そうなりますと,社内のルールとして職場復帰に向けてやるべきことをやり,それでもなお困難であるという場合に解雇,退職するというものを作り上げていく必要があります。
例えば,休職制度という制度があります。職場復帰を段階的に進める制度で,一時休職して様子を見,それでも職場復帰が困難ということであれば,解雇となります。これは条件付きの解雇とも呼ばれたりします。
解雇というのは労働者の生活にかかわるのそう簡単にできる訳ではありません。しかし,中小企業の場合などは別の仕事を用意できるわけでもありません。人間関係も強いので見捨てるようなまねをしたくありません。逆に,うその病気だろうということで憎しみに近い状態になることもあります。
ともかく,冷静に対応するためのルールを日頃から心がけておく必要があります。情報収集,段階的対応,さらには雇用の継続か解雇か,辞職を求めるかなどだんだんとレベルを高めて判断していくことになります。
以上
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