№2324 うつ病対策メモ
顧問先会社の社員がうつ病のためうまく働けない状態になったというので対応メモを作りました。
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1. うつ病についての考え方
うつ病は一般的には心理的負荷の低減,休養,投薬,カウンセリング,環境の改善,生活習慣の改善などによって治療効果が見られる疾患です。生活習慣は食事,運動,睡眠など1日のリズムを整えるなど,本人にも一定の主体的努力が求められます。
2. 労働の提供とうつ病
労働契約は労働を提供に対して対価としての賃金を支払うという契約です。経営者が社員のうつ病を取り組む場合,社員が適切に労働を提供できる状態かという点も考慮しなければならなくなります。そのため,うつ病としては「治癒」されたとしても,就労可能とは限らない場合があります。
3. 社員に対する配慮
労務は身体と切り離して考えることはできないため,会社は社員の健康,身体の安全に配慮する義務があります。労務の提供は会社と社員との信頼関係の中で提供されるため,社員を守るという社内文化という点からも配慮は求められます。
4. うつ病の特性と配慮の難しさ
うつ病原因は,①業務上の心理的負荷,②家族関係など非業務上の心理的負荷,③個人の特性に分けて考えられます。うつ病患者に対する配慮は業務のみならず,個人的事情にも及ぶ可能性があるため,会社がどこまで個人の問題に踏み込むべきか,あるいは踏み込んで良いのか問われることになります。
5. 社員にうつ病が発症した場合の対応
1) 情報を収集する
職場につけるか否か,つけるとしてどの程度の仕事ができるかを判断するために情報を収集します。
本人の情報収集は本人のプライバシーも配慮しつつ収集する必要があります。問題が社内に広がることをいやがる場合もあります。しかし,本人と話し合い必要な情報として本人を説得しつつ範囲を決めていく必要があります。
① 職場の情報
事故・災害の体験,仕事上の失敗もしくは失敗することに対する恐怖,加重な仕事量,体調不調に関する本人の訴え,セクハラ,モラハラなど
② 個人の生活環境情報
自分の情報,家族・人間関係,金銭関係,アルコール依存,生活リズム(睡眠,入浴)など
③ 個人の臨床上の情報
主治医からの聞き取り,主治医に対する訴えの内容,主治医の職場に対する理解,投薬内容
※ 本人の了解を得るもしくは同行して調査します。主治医には仕事内容を説明する必要があります。
2) 情報収集のレベルに応じた職場対応
情報が収集されるに従い,対応方法が確定していきます
① 業務上の心理的負荷軽減に対する対応
② 自己責任に関わる領域に対する対応
③ 治療に関する領域に対する対応
3) 職場対応:対応できる限界を見極める
「労働契約上期待された能力を発揮する」をマキシムとして,職場としてどの程度までなら対応できるか決めていく
【就業規則に従ったハードな職場対応】
① 仕事量軽減 → 減給
② 配置換え → 労働契約との整合性
③ 職務内容の変更 → 労働契約との整合性
④ 病気による欠勤 → 就労規則
⑤ 休職命令 → 正当事由,就労規則
⑥ 復職 → 就労規則
⑦ 退職
【人間関係を利用したソフトな職場対応】
① 当人との対話など通じて生活習慣改善に向けた主体的努力を引き出す
② 職場の人間関係で配慮
③ 職場対応の限界を補うための社会資源の活用
・ 所得を補う → 傷病手当,労災補償
・ 治療費など
・ 職場対応の公的援助制度(社会資源の活用)