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№2417 精神疾患に対する企業対応

 ビジネス法務(2021年4月号)に「精神疾患に起因する社員の問題行動への労務対応」という特集があった。
 精神疾患というのは素人には分からない疾患だ。代表的なもににうつ病があるが,診断書があれば一応そうなのかということになるが,それも必ずしも当てにならない。病気になった従業員は助けてやりたいが,一方で疑いたくなってしまうこともある。精神疾患だと気づいてはじめて特異な行動の意味が理解できることもある。

 
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労働契約では労務の提供が義務
 労働は商品と違って人の生活や人格と切り離せないので,社会的には手厚い保護がある。しかし,労働契約は労務の提供によって対価を得る契約なので,労務の提供は義務づけられる。精神疾患だからといって労務提供の義務がなくなることはない。病状が重くて労務の提供ができなければ休職あるいは解雇もあり得ることになる。とはいえ,人を大切にしなければ事業の持続的発展は望めないし,簡単に人を切り捨てる職場にはやはり未来はないように思う。

 

精神疾患でやっかいなのはそもそも病気であるかわらかない点だ
 傷ができたり,発熱の症状が出れば私たちも日常的に経験するのでわかりやすい。ビジネス法務では精神疾患を疑わせるいくつかの兆候について解説する。
 ① 空気が読めない
   余りにも唐突な行動を起こす例について,社会性の障害(空気を読みづらい,暗黙のルールがわかりづらい)といった自閉スペクトラム症(ASD)視点もあるという。
 ② 不注意が多すぎる
   「本人はその都度,平謝りであるが,指導しても繰り返してばかりいる。努力が足りないのではないか」,こうした傾向について注意欠如多動症(ADHD)という視点がある。
 ③ 仕事を放り出して逃げた
   仕事の強いストレスで突然音信普通になった,その間の記憶が無いという症状に解離性障害という視点があるようだ。
 ④ クラッシャー
   管理職なってからパワハラがひどく,ヨイショするスタッフだけを重宝する。これは自己愛性パーソナリティ障害の可能性がある。

 

精神疾患は誰にでもある傾向かもしれない
 精神疾患だと決めつけることで差別を生む土壌があることには十分配慮しつつ,一方で精神疾患の特徴を理解することにより,職務上の問題行動をより理解しやすくなる場合がある。余りにも空気が読めない事例であれば,何らかの障害があるという視点を持つことで正確な分析と対応が可能になるかもしれない。不注意が多い人に普通の指導ではだめかもしれない。もっと丁寧に,子供のように指示しなければならないかもしれない。

 

判例は疾患の内容を正確に調査することを求めている
 うつ病,妄想,職場放棄など精神疾患にまつわる裁判例は多い。その企業で可能な合理的配慮があるかないかが一つの基準となるが,その前提として健康診断や,主治医の面談など調査することを求めている例が多いようだ。この点,就業規則をよく整理しておく必要がある。

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