共同事業を開始するにあたって,役員選任を合意をする場合がある。例えば,A,B,Cが3人で合弁企業を設立する場合,全員必ず役員に選任する旨の合意をすることがある。
しかし,3人が仲間割れしたり,相続が発生して関係が希薄になると,誰かが排除されてしまうことがある。この場合,役員選任の合意は有効に機能するだろうか。
契約は株主間の問題,会社は関係ない!
役員選任の合意があっても株主総会の決議が必要になる。3人のうち2名が結託すると,残る一人を排除することは可能だ。
契約上排除できないといってもことはそう簡単ではない。契約違反の決議も会社法上は有効な決議となってしまう。違反ということであれば当事者間で賠償問題で解決しなさいというのが法律の立場だ。
株主間契約はあくまで株主間の問題であって,会社は関係ないという考えになる。
株主間契約に実行力はつけられるか?
当事者間の契約は原則会社に関係しないという考え方に対して,黄金株という方法で対抗することができる。黄金株というのは拒否権付種類株式(会社108条1項8号)と言われるもので,取締役の選任,定款の変更,会社の重要な財産の譲渡など重要事項について拒否権がある株式を言う。会社の重要な意思決定は黄金株所有者の意向を無視して決めることはできない。
このほかにも次の通りの内容を合弁契約書につけておくのもよいかもしれない。
① 厳しい罰則をつけておく
② 株式の買い取り請求権を契約に織り込む
③ 株式信託の活用(これも結局契約の問題になるので限界がある)
契約条項はかなり明確にしておく必要がある
こうした合弁企業などを作る場合,当初は関係がうまくいっているので契約書などという堅苦しいものに避ける傾向にある。しかし,企業の寿命は長い。何が起こるか分からない。契約書はしっかり作っておく必要がある。
最近東京高裁で契約があいまいであるということで拘束力が否定されてしまった事例がある(R2.1.22,判時2470頁,84頁)。
この事例は3人で事業を始めたが,世代交代の末,相互の関係が希薄になってしまい,1名の後継者が会社経営から排除されてしまった事例だ。閉鎖企業の場合,配当もないため株式を持っていても経営に参画できなければなんの利益もない。この事例では排除されたためただ株を持っている状態に追い込まれてしまった。おそらく,相続のたびに相続税はかけられることになるだろう。
株主間契約が問題になった判例は次の通り。
東京高裁H12.5.30判時1750号169頁
名古屋地裁H19.11.12金判1319号50頁,この事例は株主間契約に強制執行を認める場合があるが例外的であるとしている。