№2098 お客様の感情的なノー
「営業の哲学」(高野孝之著)にはお客様からのクレームについて触れている。
ここではこんな言葉から始まっている。
「お客様は,論理的な『イエス』よりも,感情的な『ノー』を優先する。」
理屈ではわかっていても,感情を害すると商談は成立しない。顧客としての信頼関係は維持できない。感情的なイエス・ノーというのは何だろうか。
営業の哲学では商談成立後,定期的な訪問を怠ったことで,顧客からクレームがついたという逸話を紹介している。商談成立してしまえば,それまででおしまい,お客は見捨てられた感があって,冷たいやつというような感覚を持たれてしまったらしい。
私たち弁護士でも合理的に考えると,事件を引き受けて処理さえすればよいと考えがちだ。しかし,依頼者が事件を依頼するとは,弁護士との「委任契約」という絆を「買う」というところもある。これは弁護士がある程度,顧客の「感情のひだ」のようなところを理解してくれる,あるいは理解しようとしてくれるというところに価値を見いだすということだ。
おそらく,一般の商売でもこうした,「信頼関係」もあわせて買ったと感じる顧客も多いのではないだろうか。特に日本企業の場合,「単にものを売るのではない,サービスも売るのだ」,「製造業はサービス業だ」と考えている事業者も多い。そこでは「顧客の感情的なノー」,「感情的なイエス」を見極める必要がある。
わたくしの顧問先には,ある大手の商品を一手に引き受けて業績を安定させている企業がある。これができているのは,大手社長と特別な信頼関係があって発注がくるという結果になっている。論理的に考えると,顧問先の規模では「ノー」だが,感情的には「イエス」だった訳である。