名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№1181 「ひこにゃん」著作権事件の顛末

№1181 「ひこにゃん著作権事件の顛末

ひこにゃん法廷に行く
 ゆるキャラの元祖、彦根の「ひこにゃん」は著作権でもめてしまった。ひこにゃんを考案したY社はあんなに評判になるとは思わなかったのか、著作権を改めて主張し、法廷で争うこととなった。

ひこにゃん事件での著作権契約
 契約書によると「納入したシンボルマーク等の所有に関する著作権等一切の権利は甲(国法・彦根築城500年祭実行委員会)に帰属するものとする。」と記載され、「ひこにゃん」の著作権も実行委員会に帰属することになっていた。実行員会は解散して、実行委員会の一切の権利は彦根市に引き継がれている。

 確かに契約書から言うと、ひこにゃん著作権彦根市に移っているように見える。しかし、著作権とは言ってもいろいろな意味があって、複製したり流通させる権利だったり、さらに基になる著作物からさらに2次著作物を作る権利(翻案権)などがある。本件契約によって一切合切移るかというとそうでもないのだ。

ちょっと難しい議論です。著作権法61条。
 著作権法61条2項によると「著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されているものと推定する」という条文がある。

 これは、「一切の権利の譲渡」というような広範に移転を認める契約は著作権者の利益を不当に害するものとして制約する趣旨だと説明されている。つまり、著作権者は弱い立場に立ちやすいので、著作権者の利益を一定の範囲で保護しようというのである。

ひこにゃん事件の顛末
 ひこにゃんの事件では経過が複雑でいろいろあるが、原審は差し止めを認めなかった(大阪地裁H22.12.24判時2167号102頁)。さらに、抗告審(大阪高裁)は著作権の帰属が問題となり翻案権がY社に残っているかどうかが問題となった。Y社はひこにゃんのキャラクターを使ったお菓子、絵はがきを販売したほか、「ひこねのよいにゃんこ絵本」を売り出したところ、キャラクターを改造する権利も彦根市にあるからその利用の差し止めを求めたのである。

 高裁は翻案権が移転するためには特別な契約条項が必要だとした。しかし、菓子、絵はがき、文房具などは採用に際して、彦根築城500年祭のPRに利用されることを前提としており、その範囲での2次著作物の作成は予定されていたとする。従って、その限りで著作権は移転していたする。だが、絵本については最初の段階で予定されていないため、絵本利用のための翻案権はY社に残っているとした(大阪高裁H23 .3.31決定、判時2167号81頁)。


 判例評釈によると、著作権法61条2項が問題となった事例はそれほど多くない。
■ 著作権者に残っているとしたもの
「記念樹(対フジテレビ)事件」東京地裁H15.12.19、判時1847号95頁
「再配分とデモクラシーの政治経済学事件」東京地裁H19 .1.18 、裁判所HP
「CRフィーバー大ヤマト事件」東京地裁H18.12.27、判時2034号101頁
■ 著作権が移ったとするもの
「振動制御プログラム(振動制御システムK2)事件」

名古屋E&J法律事務所へのお問い合わせはこちら
イメージ 1