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№1952 株式の遺言信託の効力

№1952 株式の遺言信託の効力

 親子で争い、親が孫に株式を譲るという遺言もめずらしいことではない。
 これは親が子を飛ばして未成年の孫に株式を譲り、株主の権利行使を弁護士にゆだねるという考えで行われた遺言だ(東京高裁H28.10.19判時2325号41頁)。

「私の財産のうち株券は全部○○(孫)にあげる。株券は○○が成人するまで弁護士○○が信託管理し株券の権利行使は全部同弁護士が行使する。」

 この遺言は、子の権利を奪い、孫に譲るというものだが、技巧的すぎて失敗した。

1. 信託とは何か
  信託というのは名目上、権利を移転させるが、受託者は信託の趣旨に権利を運用しなければならない義務を負うことになる。信託は信託法によって規制されている。信託は信託会社が受ける場合や、民事信託といって業として行わない場合などがあり、契約でも遺言でもできる。

2. 信託においても譲渡制限がある
  信託する場合、法形式は権利が移転するので、定款の譲渡制限がある場合には取締役会の決議を要する。取締役会の決議が否決された場合には信託による名義移転がないので、信託は信託の目的を達成できず、信託は終了する(信託法163条1号)。

3. 遺言信託でも譲渡制限がある
  遺言信託によって、株式の管理を第三者にゆだねる場合、譲渡制限の手続きを経なければならない。この場合、取締役会が承認しないとせっかく遺言信託しても信託は終了してしまう。信託が終了すると、もとの信託者つまり遺言でもらい受ける者に権利が移ることになる。

4. 遺言信託の場合、信託部分のみの受益権放棄もありうる
  上記の遺言は、子を飛ばして孫に株式を譲るというものであるが、子は孫の親、つまり親権者となっている。そのため、孫の親権者として遺言信託の「信託部分」のみ受益の放棄、つまり信託関係を拒否することができてしまう。そうなると、せっかく遺言を残しても、親が放棄してしまうと信託は終了してしまって目的を達成できない。

5. この事件の顛末
  遺言者はなんとか子の影響力を排除しようとして、孫に株式を譲ってしまったのだが、遺言信託という方式をとったのがまずかった。譲渡制限に抵触する上に、子が孫の親権者だったので、信託部分のみ放棄ししてしまった。そのため、東京高裁は信託は終了していると判断した。

 技巧的すぎて失敗した事例であり、最初から自分が弁護士に信託的に譲り、孫が成人したときに株式が帰属するようにしておけばこんなことにはならなかった。

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