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№1182 根回しとプロセスコンサルテーション

№1182 根回しとプロセスコンサルテーション
 E・シャインの「プロセスコンサルテーション」(白桃書房)を読み続けている。

 シャインは組織が動くときの人の心理、行動を分析している。特に興味深いのは働きかけによって人が動く過程を洞察している点だ。人と人との関係の中で、事実が解明され、アイディアが生まれていく。

 会社という組織が動き、新しいものができあがるときも同じで、人と人との関係の中で事実が解明され、アイディアが生まれ、実践されていく。組織とは言っても結局は人と人との関係の問題ということに行き着くことになる。

 プロセスコンサルテーションはこうした人と人との関係で生み出される決断、行動を「組織」という「大きな人の関係」という分野で研究されたものと言いうるかもしれない。

 例えば、シャインは「クライアントの概念」という章でクライアントを様々に定義して分析している。コンタクト・クライアント、プライマリー・クライアント、自覚のないクライアント、究極のクライアント、クライアントでない人たちといった風に彼はクライアントを分け、コンサルタントがそれぞれのクライアントに接したときの関係について述べている。

 このような考え方はふだん私達がやっている作業だ。例えば、ドラッカーは「顧客は誰か」というような問いをよく提起する。そこでは、直接の顧客ばかりでなく、最終ユーザーにつながる中間社も顧客として認識するべき場合があるということを述べている。

 つまり、人が動く時はその人だけの決断で動くわけではない。その人に関係する様々な人が働きかけて最後にその人が決断することになる。まして、組織のような場合、上司や同僚、さらには社長との意見調整が必要になってくる。シャインの「クライアントの概念」の章ではこうした組織の関係者との意見調整のあり方が分析されている。

 例えば、コンタクト・クライアントは最初に接触する依頼者であるが、彼に権限がない場合はさらにプライマリー・クライアントとの接触が必要であるとする。プライマリー・クライアントはそのプロジェクトを決定する上で重要な役割を担うステークホルダーである場合となるが、事態の進展によって交替しうるし、人数も変化する。

 このような変化はプロセスコンサルテーションという考え方からすると当然ということになる。プロセスコンサルテーションでは、クライアントの意思決定を助けるという考え方で対応するので、事態の進展によって意思決定に必要な人も、範囲も異なっていくことになり、それに応じてクライアントの範囲も異なってくる。

 こうした、意思決定のプロセスは、非常に複雑で、我が国で適切な言葉ということであれば、「根回し」という用語かと思う。日本の意思決定のプロセスは非常にわかりにくいが、ひとたび決まっていけば組織全体に浸透する。これは根回しが行われた上で決定されていくので、決定が組織に浸透しやすいのだ。この点は欧米流のトップダウン方式と異なる。

 日本の根回しについては、ドラッカー先生もその著作で褒めておられた。