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№659 新株発行が無効とされた事例

№659 新株発行が無効とされた事例
 多角経営の方法としていくつかの会社を持つという方法がある。
 例えば、病院は「営利」では動けないため、いくつかの会社を設立する。その時に会社の支配をきちんとしなければならない。
 
 あるいは、何とかインベストメントという名前で会社を経営し、いくつかの異なったタイプの会社を持つことがある。この場合にも会社の支配は重要な業務となる。人を信頼するだけでは足りないかも知れない。
 
 世の中には悪いやつもいるもので、会社を任されていながら、新株を発行して自己に割り当てることがある。横浜地裁の事例は非公開会社(株式に譲渡制限が設けられている)を任された社長が、オーナーに内緒のまま新株を発行した事例である。
 
 非公開会社は株式の譲渡制限が定款で定められる会社だが、会社に対する「支配」が重視されている。非公開会社が新株を第三者に割り当てる場合には株主総会の特別決議が必要となる(会社法199条Ⅱ、200条ⅠⅢ)。勝手に第三者に割り当てられて支配権が変わることは株主の重大な利害にかかわると考えられているからだ。
 
 ところで、新株発行に際しては、公開会社では募集要項を株主に公告または通知することになっている(会社法201条ⅢⅣ)。しかし、非公開会社ではこの規定はない。そのため、代表取締役はやろうと思えば、オーナーである株主の知らない間に株式を発行することができる。
 
 オーナーが知らない間に発行された株式は当然、株主総会の決議を経ていない。株式なので新株発行無効確認訴訟の対象となる。ところが、なんと、特別決議を経ていない新株発行は必ずしも無効とは限らないのだ。株式は高い流通性を前提にしているため、むやみに無効とすると株式取引が混乱する。そのため、無効とはできないという考えもある。第三者への有利発行の事例であるが最高裁は特別決議のない新株発行を有効と判断した(最判S46.7.6判時641号97頁)。
 
 これはかなりの知能犯だ。
 つまり、非公開会社であること、新株発行では株主に公示、通知が不要であること、特別決議を欠く新株発行が無効となると限らないことを知っていなければならない。もし、弁護士が指導していたとしたらとんでもないことだ。仮に公開会社であれば、公示、通知が必要となり、それを欠く場合は無効事由となるが判例である。しかし、非公開会社の場合は公示、通知がないのでこの判例は使えない。
 
 ちなみに、上記事例はオーナが勝訴し、特別決議を欠く新株発行が無効であるという判決が最近出ている(横浜地裁H21.10.16判決、判時2092号148頁)。
 
 こうした会社乗っ取りの場合にはすぐに弁護士に相談して手を打たなければならい。新株を発行する前であれば発行差し止めの仮処分が必要だし、発行後であれば、新株発行が無効であるという訴訟を直ちに行い、場合によっては、新社長の地位を停止させる仮処分も必要になる。これは大急ぎで対応することになり、顧問弁護士にすぐにでも相談する必要がある。