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№223 松下ディスプレイ社事件の教訓 労働者派遣法40条の4

№223 松下ディスプレイ社事件の教訓 労働者派遣法40条の4
 松下ディスプレイ社はディスプレイを製造する業者であるが,パスコ社より労働者の派遣を受けていた。製造業解禁前であったために請負を偽装していたが,これは公序に反し無効とされた。

 この事件は労働者派遣法40条の4の射程範囲についても触れている。 本件では原告は,製造業務への労働者派遣が解禁されてから1年を経過した時点で,労働者派遣法40条の4に基づき,松下ディスプレイ社は直接雇用申込義務が生じたとした。そのため,同条を根拠として直接雇用関係が生じるかどうかが争点となった。

 法40条の4は一定の条件のもと,直接雇用申込義務を定めている。契約は申込と承諾によって成立するから,雇用者が申込し,被用者が承諾すれば労働契約は成立する。申込だけでは契約は成立していない。

 この点,判例は「派遣先が派遣受入可能期間を超えてなお同条に基づく申込をしないまま,派遣労働者労務提供を受け続けている場合には,同条の趣旨及び信義則により,直接雇用契約の締結義務が生じると解しうるとしても」と,直接雇用契約締結義務の存在に含みを残している(法40条は平成16年に改正され直接雇用申込義務を定めている)。
 http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kaisei/koyou.html

しかし,「契約期間の定め方を含む労働条件は当事者間の交渉,合意によって決せられるべき事柄であって」,締結する義務があるかもしれないが,締結しない限り契約は成立しないとした。

 ここのところはわかりにくい議論だ。契約を申し込む義務まではあるが,申し込まない限り契約は成立しないという意味である。法学部の学生でも混乱して分からなくなる。裁判としては,「被告は原告に対し,直接雇用を申し込め」という裁判はできても,「原告の雇用上の地位を確認する」という裁判はできないということだ。

 このように考えると,労働者が派遣先に直接地位確認を求めるのはかなり難しいかもしれいない。しかし,申込義務を根拠にした裁判は可能性がある。