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№222 松下ディスプレイ社事件の教訓 派遣労働(1)

№222 松下ディスプレイ社事件の教訓 派遣労働 1
 前回に続いて松下ディスプレイ社事件を検討する。
 この事件は労働者派遣契約に関する画期的判決とされている。確かに派遣先に地位確認を認めた点で画期的だ。判決文を検討すると松下ディスプレイ社の非人間的ないやがらせもさることながら,それを暴いていった弁護団の力量がうかがわれる。

 控訴審は松下ディスプレイ社とパスコ社との契約は労働者供給契約と見て,職業安定法44条及び中間搾取を禁じた労働基準法6条に違反し,強度の違法性を有するとして,契約全体を無効として扱った。昔のタコ部屋契約のようなもので,松下ともあろうものがこんなへんてこりんな契約をしていたと思うと大企業とは言ってもたいしたことはないと思ってしまう。

 ともかく,契約全体が無効となるため,当事者間には何もないことになる。残るのは,原告が松下ディスプレイ社の工場で働いて,指揮命令下に置かれ,お金をもらっていたという事実関係が残る。この事実関係をもって,判決は「黙示の合意」としたのである。

 本件は偽装請負契約後,パスコ社と松下ディスプレイ社とは労働者派遣契約を締結しているが,それも,偽装請負を延長するもので90条に違反して無効であるとした。

 では,労働者派遣契約という視点でのこの判決の射程範囲はどこまでであろうか。判決は労働者派遣契約が締結されているものの,偽装請負を糊塗するにすぎないとしたようだ。それは派遣契約するに際して「遵守が求められる多くの手続規定を遵守,履践していないことが明らかである。」という理由である。
 この点,判例は労働者派遣法について強い規範性を認め,手続き規定違反をもって無効原因としているのである。