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№75 殺人

 マスコミでは殺人事件の報道は絶えない。ミステリーでは殺人は必須のアイテムだ。しかし,現実の場面と言うことになるとほとんどの人にとっては未知の話だろう。私がまた若いころ,集中的に殺人事件の弁護を引き受けたことがある。人が人を殺すというのはやはり恐ろしいことだ。私の友人の弁護士は余りの残虐さで食事もできなくなってしまった。

 ある事件では男が生活に追いつめられ,一人暮らしの老女をねらった。夜間に忍び込み,首を絞めて殺した上,強姦し,わずか数万円の金員を奪った。犯人は父子家庭で,高校生の長女がいた。長女の生活は一変した。

 ある事件では永遠の愛を誓った女性に裏切られ,無理心中を図った事件があった。女性は首を切りつけられたが,幸い命は取りとめた。女性は裏切った私が悪いのだと法廷で泣き,犯人を擁護した。

 また,ある事件では,貧乏に追いつめられて母のめんどうを見ることができないというので,母に農薬を飲ませて死なせてしまった。彼は精神を病んでいた。

 殺人という非日常的な場面ではどのような人間でも大変な精神的なエネルギーを使う。それは人を殺してはならないという規範との葛藤だ。殺人という非常な時にあっても,わずかに残っている人間性と言ってもよい。我々弁護士はそこに弁護の理由を見いだす。優れた弁護士は非常の中にあっても人間を解釈できるだけの強靱な愛情を持たねばならない。

 凶悪犯をどうして弁護するのかとよく聞かれる。私は未熟なので時々犯人を許せないときがある。そのときには到底弁護はできない。しかし,世界中があなたの敵であっても,私だけはあなたの味方であるというのが弁護士という職業の宿命だ。罪を憎む世間の気持ちを代弁するのは検事の役割であって,弁護士の任務ではない。