名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№1371 O157混入食肉材の責任者

№1371 O157混入食肉材の責任者
 食肉材など食材にO157が混入することがある。この場合,小売側は大規模な回収を余儀なくされ,大きな被害を被ることがある。食材にO157が混入していた場合に,食材提供会社に賠償金を請求できるだろうか。

 事案はあるステーキフランチャイズ会社(A社)が結着肉(加工肉)を仕入れてサイコロステーキとして販売したところO157が混入していたため,食肉加工会社に12億円の賠償請求した事例だ。A社は鉄板皿を熱して客自らが肉の焼き加減を調整する方式であるため,生のまま食べられるということもあったため問題となった。

 A社は食肉業者に対して,①製造物責任法3条に基づく請求,②不法行為に基づく賠償請求,③保証責任に基づく賠償請求と3つの責任を追及した。ところが,東京地裁はいずれも退け,A社の請求を棄却した(H24.11.30判タ1393号335頁)。

 A社側の全面敗訴である。これだけの大きな事件をA社側からしかけていて,全面敗訴というのでは代理人としてもかなり責任を感じてしまうのではないだろうか。

 製造物責任は製造物の「欠陥」に対して賠償責任を負う。この場合,加工食肉材にO157が混入していることが商品の欠陥,つまり「通常有するべき安全性」を欠いている状態であるかが問題となる。

 判決文によると,次の事実を前提に欠陥は無いとしたのである。
 ① 結着肉については技術的にO157を完全に排除することは不可能であること。
 ② 食品衛生法は加熱処理で無害化できることを前提に販売を許していること。
 ③ 加熱処理を前提に広くスーパーなどでも流通していること。

 つまり,結着肉は加熱してから消費者に売れば良い,仕入れたA社がきちんと加熱しないのが悪いというのである。もちろん,これに卸業者である食肉加工業者としては加熱処理しなさいという説明が必要であるが,様々なところできちんと警告表示していると認定された。

 この事件の勝因は食品衛生法上の規制が実際にはどのようなものであったか,現実の流通上の実態はどのようなものであったかが争点となった。「通常有するべき安全性」の「通常」というとき,どうしても法規制の実際は大きな影響を及ぼす。

 なお,この事件,加工肉を仕入れる段階で,肉の品質,つまり安全性について当事者間で十分協議されていれば違った結果になったかもしれない。つまり,仕入れ担当者がA社の調理方式について十分説明し,さらに加工業者側が安全性を保証する形式であれば勝訴の可能性があったかもしれない。工業製品などでは部品の品質について,専門技術者同士が合意書を作成していくことがあるが,食肉仕入れではそのようなことは無いのかもしれない。
 
 食中毒事件として、大阪地堺支判平成11年9月10日判タ1025号85ページ(O157)、岐阜地判昭和48年12月27日判タ307号87ページ(卵豆腐、サルモネラ菌)、大阪高判昭和55年3月14日判時969号55ページ(フグ)、大阪高判昭和63年3月28日判時1287号80ページ(フグ)、仙台地判昭和49年10月11日判時763号24ページ(さつまあげサルモネラ菌、刑事事件)。