№1013 課長の叱責が原因で自殺
3時間に及ぶ課長の叱責がきっかけになって職員が自殺した事例で、使用者に賠償責任が認められた。会社(農協)は職員に対して、自殺防止の安全配慮義務があったとされた(釧路地裁帯広支部H21.2.2、判時2056号110頁)。
「うつ病」は現在最も社会的に注目されている労使問題と言える。
もっとも、うつ病というのは本人の訴えによって症状が判断され、症状が客観化されにくい。単なる怠け者じゃないかという疑いが常につきまとうところがある。
また、実際のうつ病になった従業員は作業能率が大きく落ちる。薬の影響で判断力も落ちてしまう。使用者から見ると役に立たない、いらつくといった感じになる。そして、そのことが、さらにうつ病従業員に対する厳しい視線になってしまう。
判決文ではいくつか自殺の兆候があったと指摘している。
① 他の職員が休職、退職が相次ぎ、仕事量が増加していったが補充されなかった。
② 早朝出勤、深夜の出勤、休日出勤があいついだ。
③ 昇級して、部下の管理が必要になった。
④ 「毎日寝付けない」「家にいても寝ていても常に仕事のことが頭を離れない」「ゆっくりしたいわ」など言うようになり、覇気を失い、まわりからも注意するように言われるようになった。
⑤ 上司からの叱責厳しく、心理的負荷があった。自殺直前は3時間にわたる叱責が行われた。
次のような事実が認定されている。
「課長は亡Bに対し、抱え込んでいる仕事を列挙させたところ、亡Bは、十数項目に及ぶ未済案件を申告した。その中には電話一本で終わるような業務も含まれていた。」
つまり、仕事量が増えていた、慣れない管理職に悩んでいた、覇気を失っていた、本来ならばできる仕事ができないでいた。そんな中、「電話一本で終わるような業務」ができていないことにこの課長はおかしいと思わなければならなかった。
おそらく、この課長は業務ができないことにいらつき、覇気が足りないことに根性がないと思い、思いっきり叱責することが部下を動かすという行動に出ていたのだろう。部下から見れば最悪の上司だったのだろうし、内心は殺してやりたいと思っていたかもしれない。自殺は会社や最悪の上司に対する復讐も含まれていたかもしれない。
※ うつ病と労災について
① 判断基準について
② 判断要件の運用について