社内幹部のパワハラに対して,さらにその上司である社長個人が責任を負うことがある。東京地裁は,店員のパワハラ自殺について,パワハラした店長のみならず,そのまた上司の社長の個人責任を認めた(H26.11.4判時2249号54頁)。このケースでは社長個人が2879万円の賠償を命じられている。
パワーハラスメント,つまり職場の上下関係を利用して,いじめや過剰な業務指導を行うことをパワーハラスメントと言う。パワハラによって従業員が精神的にやんだり,さらには自殺などに追い込まれると,パワハラの当の当事者も不法行為責任を負うほか,会社も責任を負う。
① 上司の責任
② 会社の責任
③ 社長個人の責任
さらに,役員の第三者に対する賠償責任と言って,会社法上の社長などの役員の個人的な賠償責任が定められている。会社法429条は「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めている。
東京地裁の事例は多様な飲食店を経営している某社の店長の話である。長時間労働させていた上で,店長は部下に対して日常的に叱責を繰り返し,部下の服を破く,客につけられたガムのクリーニング代を弁償させようとする,休日に呼び出して懲罰的な仕事をさせる,部下の恋人に電話して別れさせようとするなど異常とも言える執拗なイジメを繰り返していた。その結果,この部下はうつ病にかかり自殺に至った事例である。
長時間労働でも賠償問題が発生するような事例であるが,さらに犯罪に近いような執拗なイジメについても当然賠償責任が認められるだろう。
この事例では店長のパワハラに対して,社長個人が責任を負うべきであるとした点が重要だ。この会社では次の点から社長個人の責任を認めた。社長はパワハラが無いように社内の体制を整える必要があったが,その体制がなかったことについて責任を認めたのである。
① 店長会議に社長は出席して状況を把握できる立場にあった。
② 売上報告書から異常な長時間労働を把握すべきであった。
③ 朝礼などでも暴言や暴力的な行為を認識できることができた。
④ エリアマネージャーに対する教育などがなかった。
この会社はおそらく社長を中心に全体に売上中心,暴力的性質がある指導監督するという企業文化があったのだろう。裁判でもそうした社長自らの暴力的な性質が明らかにされていたのかもしれない。