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№817 老女に2億円出させた事例

№817 老女に2億円出させた事例
 大阪地裁の興味深い事件を紹介したい。

 この事件は大正4年生まれの女性より、「命の鐘」と称する梵鐘製作を2億9000万円で受注したという事件だ。なんと、業者は女性に2億円を前払いさせていた。契約書は2億円を前払いさせた後に、わざわざ作り、その契約書に中途解約した場合は売買代金の69%を違約金とする条項をわざわざ入れ込んでいたのだ。しかも、鐘を納めるお寺は決まっていなかった。

 事件は平成19年だから、当時91才ぐらいではないだろうか。これだけでも異常な契約であって、詐欺っぽい話になる。もっとも、この事例で問題なのは、女性が10年ほど前から鐘の製作を業者と協議していたらしい。2億円の振込に際しては、銀行支店長や担当者を自宅に呼んで必要な手続きをしている。こうなると、少し微妙な話しになる。

 この事件では女性の意思能力、契約当時、正常な判断能力を失っていたかという争点などいろいろあったが、消費者契約法4条違反を理由に契約の取消を認めたという点で、興味深い事例となった(大阪地裁H23.3.4、判時2114号87頁)。

 消費者契約法4条では重要事項を告げなかったたために、消費者が重要事項が存在しないと誤信したり、誤った解釈をしているような場合は、この法律によって取り消すことができる。

 この条文は、詐欺とは言わないまでも、それに近いような状態であるときに、消費者保護の視点から取消を認めようというものである。

 本件では、69%の違約金条項が不利益な重要事項と認定し、業者はそれを告げなかったことから、老女において、違約金を払わなくても解約できるものと誤信したと認定した。そして、消費者契約法によって取消を認めたのである。

 中小企業者で販売に関わる業者も多いかと思うが、消費者契約法のことはちゃんと理解しておく必要があるし、コンプライアンスの問題としてきちっと社内の体制を組んでおかないと思わぬ損害を被ることになる。