名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№949 株式譲渡契約、三男に事業を承継させた事例

№949 株式譲渡契約、三男に事業を承継させた事例
  M&Aは株式を譲渡することによって成立する。会社の支配権を得ることを目的とするならば少なくとも特別決議の要件を満たす数、発行済み株式総数の3分の2以上の株式を取得することが望ましい。

 複数の子供たちの中で一人に特定の会社を引き継がせようと思うのであれば、やはり承継させる子供に3分の2の株式がわたるよう何らかの措置が必要となる。例えば遺言であるとか、生前に譲渡契約をしておくとか必要だろう。譲渡契約の場合、税務対策上売買契約が使われることになる。

 今回の紹介の事例は創業者が三男に事業を継がせることにし、「本社」の株式を三男経営の会社に売却した事例だ。創業者の死亡後、どうやら兄弟間の争いが生じたようで、三男の会社が売買契約に基づいて株式を渡すよう訴えを提起し、これが認められた。生前、創業者と三男との間で譲渡契約が締結されていたからだ。契約書には公証人役場の確定日付印が存在する。

  この契約書は次のように始まる。
「甲は乙の一者又は全者に対して、現在甲が所有する丙の株式2万8890株のうち、1万8890株を第3条以下の約定で売り渡すことを約し、乙はこれを承諾した。」

  以下は複雑なので省略するがいくつか特徴的なところがある。
① 数年にわたって徐々に売却するという内容であること。
② 株式の価格算定方法は契約締結時の価格を基準とし一株当たりの純資産価格の増減を調整した価格としていること。
③ 取締役会の譲渡承認があることを契約書に盛り込んでいること。さらに、取締役下院の承認決議を変更できないと義務づけていること。
④ 譲渡が実行されない場合の債務不履行に備えて損害賠償の予定が定められていること。

  さらに、この事例では創業者と三男との間で違約金を担保するために創業者の株式を差し入れる担保契約を、別途締結し、三男は株券を交付を受けている。この担保契約には違約金の算定方式まで定めている。
「甲及び乙は、原契約第5条の違約金については乙が選任する資格ある公認会計士が純資産方式により算定する額をもって決定することに合意し、その決定額について甲は異議を述べない。」

  この紛争事例は結局三男が勝利するのであるが、弁護士のすぐれたアドバイスのおかげだろう。それは、担保設定契約を締結したこと、違約金について価格決定方法を担保契約に定めた点にある(東京地裁H23.6.7、判時2134号、68頁)。