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№1059 旅館の予約の取消料

№1059 旅館の予約の取消料
 契約を作成する場合に,違約金などが定められるが,あいまいなことがあったり,消費者契約法に触れたりすることがある。事業者,特に普通取引約款のような定型的なひな形がないような場合には注意を要する。

 例えば,団体がまとまって旅行する時などは旅行会社に手配を依頼する。しかし,何らかの事情で団体旅行がキャンセルになってしまうと旅行会社や旅館にとっては大きな損害となる。その時のために一般的には取消料という違約金が定められているが,単純ではない。

 平成21年ころ,慶応大学のあるラグビークラブ50人は5泊6日の合宿を予定していた。しかし,部員の一部がおりからの新型インフルエンザに罹患していたため,前日になって宿泊が取り消されてしまった。

 本件では旅行会社(楽天トラベル)との間で手配旅行契約が締結されており,前日の取消は宿泊料金の100%に相当する取消料が発生する旨定めてあった。ラグビークラブは約款に従って一旦は賠償金を支払ったものの,新型インフルエンザの流行は自分たちではどうにもならない被害なのだから自己都合による取消ではないとして賠償金の返還を求めてきた。

 手配旅行契約書には次のように記載されてあった。
(1)「契約成立後,お客様のお申出があった場合やその他お客様の都合により,旅行の取消又は変更が生じたときは,取消料をお支払いいただきます。」 
(2)「取消料の額は,手配先の宿泊施設・利用施設及び運輸機関等の定める取消料い当社所定の取消・変更手数料金及び取扱料金に加えた額とします。」

 この取消条項は実はけっこうあいまいなことが分かる。
 まず,(2)の条項では直ちにキャンセル料の計算ができない。計算できない契約はそもそも契約として意味をなさない。
 判決では取消条項の内容は明確だとした上で,具体的金額は楽天トラベルや旅館のホームページから判断できるとした。

 ただ,(1)の条項については,消費者契約法に違反するとした。消費者契約法は違約金については当該取引の場合に生じる「平均的な損害」の範囲を超える違約金は無効としている。裁判所は実際に旅館に生じた損害を細かく計算して,それを超える金額は無効であるとして7万3152円の返還を認めた(東京地裁H23.11.17,判時2150号49頁)

 常識的に考えると,前日にキャンセルしたとあれば,旅館にも相当の迷惑をかけただろうということが分かる。新型インフルエンザの流行とは言え,主催者側の事情でのキャンセルなのだから常識的に言って,キャンセル料を支払うべきだろう。しかし,ラグビークラブはいったんキャンセル料を支払った上でその返還を求めて裁判したのである。
 
 しかも,いったん支払って返還を求めるというのはいかにもあざとい。法律上は返還を求める場合には自分の住所地の裁判所で裁判できる。詳しくは述べないが,東京で裁判するためにいったん払ってそれを取り戻すという構成をしたのではないかと思う。もし,キャンセル料を支払わず,放置すれば,旅館側が長野県内の裁判所で裁判することになる。
 
 本県旅館は家族2名を従業員として雇っていたということだから小さな旅館だろうと思われる。100万円にも満たない裁判のために東京の裁判所で対応しなければならないのは大変だったろう。こういう裁判をすること自体がどうかと思う。