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№348 勤務医の当直 (2)

№348 勤務医の当直 (2)
私は,勤務医であっても,権利義務で構成される契約関係はきちっとされるべきだろうと思う。医は仁術であるから奉仕しろとか,医師は高給取りだから多少は働けと言った誤った価値観修正されるべきだろう。

勤務医の宿直については,最近奈良地裁で重要な判決が出された(H21.4.22)。
 奈良県立病院の勤務医が宿直の実態は,通常勤務だとして,割増賃金を請求したのだ。

 宿直というのは「断続的労働」と言われ,仕事仕事の合間に仕事をしない時間がある勤務形態である。この「手待ち時間」が多い勤務が断続的労働と呼ばれ,地方労働局長の許可を受ければ,労働時間の制限や,賃金の制限を除外することができる(労基法41条3項)。

 奈良県立病院の事例では,産婦人科医の宿直,当直中にしばしばお産があり,さらに外来救急患者にも対応していた。判決文ではその実態は必ずしも明らかではないが,日直時間中,4分の1の時間が救急外来に当てられていたと推認している。

 この外に通常の分娩,新生児治療などいろいろしていたらしいので,かなり過酷な勤務形態だったように思う。これでは奈良のお医者さんは怒るのは当たり前だ。しかも,判決文によると,被告は,お産はそう多くないとか,負担は少ないとか,賃金が公正に決められていたとか反論しているのだから,実態無視の反論に怒りは倍加されていったことだろう。

 判決文では結局,宿直は「断続的労働」には当たらず,違法であるとした。

 この事件は産婦人科医の不足が背景にある。過酷な労働条件,多い医療過誤訴訟など産婦人科医をとりまく状況は厳しい。ことに女性医の場合,女性労働者として保護されなければならない環境はどうも皆無のようだ。働く女性が結婚し,こどもを育てることは女医の場合は一般社会に比較しても困難のように思う。