「業務手当に残業代が含まれています」ということで、特別に残業代を支払っていないということはないだろうか。これはよく定額残業代とか固定残業代とかいったりしている。固定残業代について、きちんと取り扱っておかないと労使紛争ではよく問題になる。
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残業代と明示しないと残業代にならなりません
社長自身がこれはこの手当には残業代が含まれていると思っていても、明示しておかないと、残業代として取り扱われない。労使関係は契約なので片方だけがそう思っていてももう一方が理解していなければ拘束力はない。明示されていなければ単なる手当だ。毎月払っていれば、残業代計算の基礎にされてしまう。
たとえば就業規則に明示する
明示する場合には就業規則、賃金規定や雇用契約書、労働条件通知書に記載する必要がある。その記載も固定残業代と基本給などとはっきりわかるように記載されていなければならない。アバウトに「残業代を含む」となると、どこまでが残業代かどうかわからないので無効となってしまう可能性がある。せめて、「営業手当は、月間10時間分の時間外手当を含む」ぐらいのことはどこかに書いておく必要がある。
(固定残業手当)
第○条 固定残業手当は、毎月30時間の時間外労働があったものとみなし、時間外・休日・深夜割増賃金の支払に替えて支給する。
2 固定残業手当は月額●万円とする。
3 第1項の所定時間を超える時間外労働については、別途割増賃金を支給する。
固定残業代を上回る残業があれば支払い義務があります
固定残業代を上回る残業があった場合にはその分割増賃金、残業代を支払う必要がある。
最近は未払い残業代の裁判がよく起こるが、「うちは残業手当を支払っているから、余分に支払う必要はない」と言っているとこれは大変な間違いということになる。
【ここからはかなり専門的な議論】
1. 固定残業代となるためには、その内訳つまり通常労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とが判別できなければならない(最判H29.2.28判時2335号90頁国際自動車事件)。
2. 割増賃金に当たる部分が判別できたとしても、実質的に見て時間外労働の対価としての性格が判断できないといけない。私たちはこれを「対価性」を持つか、という形で議論する。
3. 東京高裁H29.2.1判決は、賃金規定に明示してあったが、雇用の実態では時間管理が不十分で労働者からは残業時間が固定残業代の範囲内かどうか不明であるとして、時間外手当と見なすことはできないと判断した。この事例ではタイムカードによる管理が徹底していなかった。
4. 一方最高裁は高裁判決を覆し、時間管理が不十分かどうかですぐには判断できないとした。重要なのは契約の実態から見て、当該手当が時間外労働の対価とみなせるかどうかが重要だとして、原審(高裁)を破棄して差し戻した(H30.7.19判時2411号124頁)