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№1201 労災と解雇無効

№1201 労災と解雇無効

1. 労災
 労働災害が発生した場合、法律によって労災保険給付、特別支給金、傷病手当金などが支払われる。労働にはなにがしかの危険な要素があるため、それが現実化したような場合には何らかの補償がされてるのである。労災中、症状固定までは解雇権も制限されている(労基法19条)。

2. 労災+安全配慮義務違反(使用者責任災害)
 労災が発生するについて、使用者側に何らかの落度があった場合、例えばセクハラを放置したとか、こういう場合には使用者には安全配慮義務違反という責任が課せられてしまう。労災の責任+安全配慮義務違反の責任という加算された責任になる。

3. 安全配慮義務違反の責任
 この場合、労災補償に上乗せして損害金を支払わなければならなくなる。死亡事件の場合には賠償金が1億円を超えることもまれではない。さらに、解雇権も制限される。責任ある行為によって被害に陥れながら、解雇するとは自分勝手で許されないとされているのである。

4. 解雇権の制限と給料
  労災によって働けなくなったような場合、労災保険から平均給料の6割が支給される。問題は安全配慮義務違反がある場合にこの休業補償金以外に給料を支払わなければならないかどうかという点だ。

  経営者の落ち度によって労働者がきちんと働けないような場合には経営者は給料を支払わなければならない(民法536条2項)。労災の場合、それが経営者の落ち度、安全配慮義務違反の場合には、たとえ労働者が働けない状態であっても賃金の支払い義務が生じる。つまり、労災によって働けなくなったのは労働者のせいではない、経営者の責任だから働けなくなっても賃金が支払われるのが公平だというのである。

5. 大きな損害
  この結論はかなり厳しい。
  例えば、解雇の無効を争って、2年ほどかけて裁判した場合、敗訴すると2年分の賃金を支払わなければならない。

  労働者側は休業中は傷病手当等を得られるのであるが、賃金の支払い義務と傷病手当等とは相殺されない(労働基準法24条1項)。全額支払わなければならないのだ。それは労基法上賃金は相殺することはできず、全額支払わなければならない。たとえ、傷病手当であってももらった分を減額すると賃金を相殺することになり法の趣旨に反して許されないとされる。

※ 参考判例
  東芝うつ病、解雇)事件
  原審:東京地裁H20.4.22 労働判例965号5頁
  二審:東京高裁H23.2.23 判時2129号121頁

※ 労働基準法19条1項
 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

※ 労働基準法24条
  賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。 

※ 民法536条2項
 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 
 
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