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№2156 年俸制で勘違いすること

№2156 年俸制で勘違いすること

年俸制でも割増賃金が発生します
 「うちは年俸制だから残業代はいらない」などと言っている経営者はいないだろうか。
プロ野球選手では年俸という言葉が出てくる。これは,労働者の具体的成果,業績を評価して賃金を払おうというもので,必ずしも労働時間をもとに払う訳ではない。

  しかし,年俸制だからと言って労働基準法が定めた労働時間規制を免れる効果がある訳ではない。管理監督者(労基法41条2号),裁量労働制(同法38条の3,38条の4)でない限り,割増賃金を支払う義務がある。時間外,休日及び深夜労働に対しては所定の支払い義務がある。

年俸でも割増分を明示する必要があります
 賃金体系の中で割増賃金が含まれて計算している場合がある。30万円の給料のうち,割増賃金として2万円入れ,あわせて32万円を支給しているような場合,割増賃金であると明示しておく必要がある。「従業員には2万円は残業代だ。」と言っている,あるいは言っているつもりというのでは通用しない。

 年俸であっても,通常の労働時間にあたる部分と割増賃金にあたる部分とが明示的に区別されていないと,あらかじめ残業代や休日出勤,深夜労働手当を支払ったことにならない(最判H6.6.13判時1502号149頁,最判H24.3.8判時2160号135頁,最判H29..28判時2335頁90頁)。おまけに,余分に払った分も基礎金額にされてしまって,それを基礎に割増分が計算されてしまう。つまり,年俸を単純に12で割って,基礎月額が算出されてしまう(大阪地裁H14.10.25労判844号79頁)。

年俸に「割増賃金を月額給料に含める」という合意だけでは不十分です
 最近,病院勤務の医師の時間外手当てに関する最高裁判決が出された。この事例では,年俸のほかに,緊急時の時間外手当,当直・日直の手当などを支払うことになっていた。しかし,「通常業務の延長と見なされる時間」については手当は出されず,年俸に含めて考えることになっていた。つまり通常業務については「割増賃金は月額給料に含める」という合意があった。

 最高裁はこの点,「割増賃金は月額給料に含める」という合意だけでは,「この時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかった」と指摘し,割増賃金が払われていたということにはならないと判断した(H29.3.28判時2351号83頁)。

どんな対策がいいか
 結局,賃金体系を作るときに社労士とよく相談して,細かく明示しておくほかはない。

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