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№21 顧客名簿の管理

 顧客名簿はたいていの事業にとって大切なデータであろう。顧客名簿は営業秘密の一つとして不正競争防止法などによって保護されている。しかし,いくら大切でもその管理が悪ければ法は保護しない。
 平成11年9月14日大阪地裁の判例は会計事務所の顧客名簿を事務員が流出させた事例であるが,「秘密」といった表示がなかったこと,事務員が誰でもアクセスできる状態であったこと,日頃から営業秘密として指導していなかったことから秘密管理性(保護に値する管理のあり方)がないとして保護の対象としなかった。会計事務所からしてこのようであるから,一般的中小企業でも多くの問題を抱えているに違いない。
 社員が退職にあたって顧客名簿を持ち出してしまう等ということは,常識的には許されないが,法的にどのように対処して良いかは正直お手上げという企業も少なくないだろう。顧客名簿が保護されるためには①保護に値するだけの管理をしておかなければならない。それは,企業秘密であることが明示され,アクセスできる者を限定するためのルールが必要だ。②次に社員にきちっとした秘密保持義務を課することが必要だろう。日頃の教育や就業規則が重要なのだ。③社員との秘密保持契約は退職にあたっても決めておく必要がある。企業秘密を流してしまった場合,退職金の半額を没収するという規定が有効であるとした判例がある。
 また,役員の場合には競業避止義務があり,これが有効に活用できる場合もあるし,役員,社員との間で競業避止義務を定める契約も有効に働くことがあるだろう。もっとも,これは職業選択の自由との緊張関係があり簡単ではない。