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№1382 元社員が顧客情報を盗み不正利用した事例(№1)

№1382 元社員が顧客情報を盗み不正利用した事例(№1)

 退職に当たって元社員が顧客情報を盗んで,それを利用し新たな事業を展開する場合がある。会社としては憤懣やるかたないが中々決め手がないのが一般的だ。私たちがこうした相談を受けるときには労働契約上の競業避止義務,不正競争防止法不正アクセス防止法など活用することになる。

 最近,こうした事例で大阪地裁は営業の差し止め,賠償を認めた点で大変参考になる(大阪地裁H25.4.11判時94頁)。

 これはオークションを通じて中古車を仕入れて,インターネットを通じて販売する業者の事例だ。元従業員が退職に祭して顧客情報を盗み取り,それを持って被告会社に就職した。被告会社は不正に入手した顧客名簿を利用して事業を展開したため,その差し止め及び賠償が問題となった。

 こうした問題を考えるとき,次の点が論点となる。こうした論点を踏まえて日頃から会社の管理をきちんとしておくことが必要だ。

 ① 顧客情報が「営業秘密」に該当し管理されていたか。
 ② 顧客情報が不正なアクセスによって入手されているか。
 ③ 事業の差し止めは可能か。
 ④ 損害賠償請求は認められるか,その金額は。

【営業秘密】
 盗まれた情報がそもそも保護に値しなければいくら盗んでも問題にならない。
 法律上は次の要件が必要とされている。
 ① 秘密管理性(秘密として管理されていること)
 ② 有用性(事業上有益なものであること)
 ③ 非公知性(一般に知られていないこと)

 これらの①から③の論点はいずれも重要な論点なのだが,企業運営との関係で特に注意して欲しいことは①の秘密管理性だ。

 中小企業の場合,秘密の管理が徹底していないことが多い。顧客名簿が会社の財産と言っても,社員なら誰でもアクセスできたり,社員が社外に持ち出しても特に管理もしていないというような場合には秘密として管理されているとは言えない。

 この事例では次のように管理されていた。
 ① 情報にアクセスルために従業員ごとにID,パスワードが付与され,アクセスできる者が制限されていた。
 ② アクセスするために使用許諾書を差し出していた。
 ③ データの消去義務,複製禁止などデータ流出のための社内規則があった。
 ④ 情報持ち出しについての就労規則や,労働契約上の合意もあった。