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№2187 個人情報漏えいの対価

№2187 個人情報漏えいの対価

顧客情報漏出させたベネッセは260億円の赤字となりました
 平成26年ネベッセコーポレーションから顧客情報4858万人分(ベネッセ外部調査報告)が漏出する事件が発生した。ベネッセは一人当たり500円の賠償金を支払う(金券など配布)措置を講じ,同年決算では260億円の特別損失を計上した。

ベネッセ事件では裁判が起きています
 このとき漏出した情報は「氏名,住所,電話番号」というような基本的な情報であった。このような情報に対して,当の個人はどんな被害があったというのだろうか。ベネッセ事件では個人が損害賠償請求の訴えを提起している。

 大阪高裁(H28.6.29)は「不快感や不安を超える損害」について具体的に立証がないとして請求を棄却した。しかし,最高裁はかかる情報もプライバシー侵害になる」とし,不快感を超える損害の発生について主張立証を尽くすべきであるとして原審に差し戻した(H29.10.23)。

住所,氏名,メールアドレス,生年月日程度で損害はありますか
 住所,氏名,メールアドレスなど基本情報は私たちの日常生活からすると,「損害」と言ったところで具体的にあげることは不可能だ。しかし,こうした基本情報であっても警察権力などによって利用されれば国民の統制につながる。それでなくても,個人情報自体に大きな経済価値を持つ社会になっているのだから,漏出に対する対価(賠償)は支払われてよいように思う。

過去に一人当たり5000円の賠償を認めています
 ビジネス法務2018年4月号にはいくつか事例が紹介されている。
 早稲田大学江沢民講演会名簿提出事件は講演会出席者名簿が警視庁に提出された事件だ。最高裁は「自己が欲したくない他者にはみだれいにこれを開示されたくないと考えるのは自然」とし,高裁に差し戻した(H15.9.12判時1837号3頁) 。差し戻し後の控訴審は学生一人当たり5000円の支払いを命じている。

ヤフーBB事件では一人当たり慰謝料1万円でした
 京都府宇治市事件(大阪高裁H13.12.25NBL別冊 79号190頁)ヤフー!BB事件では約1100件の個人情報が漏出された。大阪地裁は住所,氏名,電話番号,メールアドレスなどの基礎的情報であってもプライバシーほごの対象となると,賠償額は1万円が妥当としている。加えて,弁護士費用5000円の支払いまで命じるという異例の判決となっている。

中小企業だって油断してはいけません
 私たちが日常生活で住所,氏名,電話番号,メールアドレス,など,大量データを取り扱うようになっている。営業マンが名刺情報を整理している程度も一人当たり,1万や2万件はあるかもしれない。

 また,お客さんから名簿を預かり入力する。名簿を利用して配達業務をする。営業代行もあるかもしれない。万一,従業員がこれを漏出してしまうようなことがあれば,数の多さか言って会社にとって致命的な打撃となる。例えば1000名漏出すれば1000万円の賠償責任を負うことだってあるかもしれない。

ベネッセ事件でも単純計算すれば485兆円となります。
 ベネッセは500円の金券を配布しましたが,判例の流れからすると一人あたり5000円から1万円程度となる。4858万人分だから,単純計算すれば485兆8億円の賠償額となってしまう。これはいくらベネッセでも倒産の危機を迎えるほどの賠償金だ。

秘密管理はどうしたらいいの
 ベネッセ事件は情報漏出した子会社の従業員が刑事責任を問われ実刑判決を受けている。かなり厳密に捜査されているのでその実態も明らかになっており,秘密情報管理のあり方を考えるいい素材となっている。あなたの会社も顧問弁護士に開設してもらうといい。

    https://blogs.yahoo.co.jp/lawyerkago/40599123.html (№2137 ベネッセ事件の顛末)
    → https://blogs.yahoo.co.jp/lawyerkago/38580827.html (№1382 ベネッセ事件と秘密管理)

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