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№1721 会社の顧客を奪う社員らの責任

№1721 会社の顧客を奪う社員らの責任

 会社から独立した社員が、会社の顧客奪うなどしたことで不法行為責任が認められた事例がある。
 
 国民には職業選択の自由があるから、一般的に言うと退社した社員が同業を開業しても自由だ。もといた職場の顧客を奪うことがあっても、それは自由競争の範囲であると言える。そのため、退社した社員が、退社後もといた職場の顧客を回り顧客を奪っていくことは許される。

 しかし、いくつか例外がある。
 たとえば、顧客を奪う行為が悪質であって、自由な競争の枠組みを超えると判断されると違法行為となり、禁止される。

 紹介の事例は、マンション管理業務を行う会社から退社した社員が、マンション管理業務を行う新会社を設立した事例だ。もとの職場の従業員への影響力を行使し、その従業員を使って自社への移動を働きかけた。

 社員は独立すれば自由だが、独立前は労働契約上の拘束関係にある。会社に対する忠実義務もあれば、競業避止義務も生じる。つまり、競業他社のために働くことは許されない。

 この事例は独立した社員が、元の部下に命じて顧客を誘導させるという点で、悪質なものと認定された(東京地裁H27.2.12判時2265号59頁)

 その上で、顧客を失ったという損失、私たちの世界で逸失利益と呼んでいる損失、として900万円の支払いが命じられた。逸失利益の算定は一般的には困難で、認められないことが多い。本件の場合、民事訴訟法248条が利用された。これは、不明な場合に賠償が認められないというも不公平だというので、裁判所がある程度自由に金額を算定できるとした条文だ。

 なお、退職後に同業につかないとか、顧客に営業をしないとか誓約する場合がある。こうした契約も一応は有効だが、職業選択の自由は何しろ憲法が保障した権利だ。それに、日本社会は自由競争の枠組みの中で経済が営まれている。そのため、契約があっても誓約には限界がある。簡単なように見えて、実は非常に難しい契約となる。この契約、誓約書のたぐいでも弁護士との協議は必要だ。

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