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№1092 顧客名簿を利用された事例

№1092 顧客名簿を利用された事例
 営業マンが独立して、同じ顧客をまわって同じ商売をするということはよくあることだ。顧客と営業マンとの人間関係は会社だけのものではない。営業マンにとっても大切な財産となっている。営業マンにも「職業選択の自由」があるのでむやみに営業してはいけないというわけにもいかない。

 最近、こうした顧客を奪う行為に関する裁判例が出たのであらためてこの問題を整理しておきたい。

 事例はLPガスの販売に関するものだ。YはXより委託を受けてLPガスボンベを配送していた。配送契約終了後、Yは同一顧客に対してY自らLPガスボンベを販売配送した。このことが問題となり、XはYに対して、1億3440万円の損害賠償請求に及んだ。この事件は一審、二審ともXが敗訴している。つまり、Yの販売行為は営業活動の自由の範囲という判断だ。

 こうした問題について、大原則をまず理解しておかなければならない。
 冒頭の述べたように、営業活動の自由、自由競争の原理から言って同一顧客に対して働きかけること自体は法律上の問題は生じない。

■ 例外その1
 顧客名簿の流用禁止、競業避止義務についても契約がある場合。
 XとYとの間、会社と営業マンとの間で契約が存在する場合には禁止できる。但し、永久に仕事をしてはいけないとか、日本全国で仕事をしてはいけないといったなんでもかんでも禁止するような契約は無効となる。1年以内に限るとか、地域を限定するとかいった操作が必要だ。また、こうした制約に相応しい報酬も必要な場合がある。

■ 例外その2
 企業秘密を盗み取った場合。
 企業秘密を盗み取って、競合する事業を行う場合には違法性が強いので禁止しうる。
 この場合、顧客名簿などが企業秘密としてきちんと管理され、社員や相手方に周知されていなければならない。机の上に置きっぱなしになって誰でもみれるとか、書類には秘密であることを示す記載はないとか、ずさんな管理をしていたのでは秘密とは認められない。

■ 例外その3
 悪質な態様の場合
 既に廃業したから引き継いだとか、うそを言って競業行為をしたような場合は許されない。また、現に仕事についているにもかかわらず自分の仕事にしてくれと言うような場合も許されない。こうした、悪質な場合は禁止できる。

■ 事業者としてどうしたらいいのか
 ① 営業マンなどとの間できちんとした誓約をとる。できたら、就業規則に書き込む。
 ② 顧客名簿について秘密として管理し、社員に周知させる。
 ③ 営業マンなどにそれなりの待遇をはかる。