名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

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№10 今日の経済民主主義

 黒瀬直宏先生の「中小企業政策」を読んだ。この本は中小企業家同友会の教科書のような本で,その内容は経済民主主義の理念に貫かれている。経済民主主義という言葉は戦後の新憲法下の下で誕生した。労働基本権が認められ,農地解放が行われた時代だ。財閥解体が実施されて,中小企業は経済民主主義の担い手と期待された。この経済民主主義の有り様はその後の日本経済の展開過程で繰り返し議論され時代と共に変遷してきた。その最も重要な争点は大企業との緊張関係である。
 確かに大企業との緊張関係は存在するが,大企業が常に悪者とするような議論は当然のことながら適切ではない。大企業も経済の単位である以上,中小企業とともに尊重するべき相手だからだ。さらに,多くの中小企業は圧倒的な経済力の恩恵をこうむっているのだから。中小企業の経済の単位として尊重されるべき性格と一方で大企業との緊張関係を強いられる関係について,黒瀬先生は前者を中小企業の「発展性」,後者を「問題性」とし,「中小企業は発展性と問題性の統一物」と表現する。中小企業は常に問題を内包する存在であり,この問題性を克服するための努力を忘れてはならないということだ。中小企業家同友会には「よい経営環境をつくろう」という理念があるが,まさしくこれを言っている。
 さて,世の中の大企業の存在と,中小企業の存在はどのように折り合いを付けたらよいだろうか。黒瀬先生は「中小企業を主体とするネットワーク型産業」の発展を期待する。対等独立な中小企業が市場経済の適正なルールの下に地域で発展し,ネットワークが「大企業を頂点とするピラミッド型産業と並ぶ存在に発展する」というのが経済民主主義のあり方として重要であるという。もっとも,この適正なルールは時代と共に変遷するものだろう。「正義」は問題を克服しようという運動の中で発展し,共通の「正義」を作り上げていく外はない。これは,努力すれば「正義」は必ず前進することを意味する。