名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№2146 競業行為の差し止め

№2146 競業行為の差し止め

事業譲渡では、売主は同じ業務をしてはいけません
  事業を譲るというのは,お客さんもあわせて渡さなければならない。譲っておいて,同じ事業をやられたのではお客さんが移らない。そのため,事業譲渡では譲渡人の競業避止義務は最も重要な義務となっている(最判S40.9.22)。

 会社法21条は次のように規定している。
 ① 譲渡会社は特別な定めのない限り,同一の市町村内及びこれに隣接する市町村内で,譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならない(1項)。
 ② 譲渡会社は、どんな場合でも「不正の競争の目的」をもって同一の事業を行ってはならない(3項)。

古着ネット販売の事業譲渡事件
 最近インターネットによる古着販売事業の譲渡事件で,「不正の競争の目的」を認定して,譲渡人の事業の競業行為の差し止め,及び損害賠償を認めた事例が出た(知財高裁H29.6.15判決,判事2355号62頁)。

 この事例では,ロリータファッション,ガーリーファッションなどの古着をインターネットサイトにより販売していたが,事業売主は譲渡人は譲渡直前に別サイトを開設して,譲渡後の開業準備期間中に,顧客に対し電子メールなど送るなどしていた。典型的な競業行為で,判決文から判断するとかなり悪質だ。私の目から見ると詐欺に近い。

客を奪うような行為が「不正の目的」とされます
 インターネットという全国,全世界を対象とした世界なので,会社法21条,3項に言う「不正な目的」がある場合かどうかが争われ、競業避止義務がありながら,同一顧客層に働きかけをすれば「不正な目的」ということになるとした。

「譲渡会社が譲受会社の事実上の顧客を奪おうとするなど,事業譲渡の趣旨に反する目的で同一の事業をするような場合を指す」と判決では示している。

不正な競業行為の差し止めと賠償責任 
 判決では会社法21条違反を認め,「事業を営んではならない」という原審判決(東京地裁H28.11.11)が維持された。

 私たちからすると,実際いくら賠償されるかというのも強い関心がある。不正な競争されたおかげで支払うべき賠償額というのは立証が不可能に近い。

 本件では譲渡契約前後の粗利の差額を基準として,新事業者が事業を始めたばかりであったことを考慮して,その差額の3割程度を賠償額とした。

 立証不可能な場合で、公平の見地から裁判官が決めてよい条文があります(民事訴訟法248条)。


会社法21条関連判例  東京地裁H28.12.7裁判所HP、東京高裁H29.6.28裁判所HP
商法16条関連判例    大阪高裁H19.4.26 労判958.68
               
名古屋E&J法律事務所へのお問い合わせはこちら