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№1408 事業譲渡と負債の関係

№1408 事業譲渡と負債の関係

 事業再生の手法として事業譲渡というものが存在する。事業とは「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」(人的物的組織)と定義されている。法律的には事業の定義をめぐっていろいろあるくらいなので一般の人は事業の意味についてはよくわからないことが多い。

 事業と負債との関係ではこういう例が少なくない。
 負債が1億円ほどあった。そこで,事業を別会社に売却し,その売却代金を持って負債や会社清算の資金にあてようという例だ。その場合,負債は譲渡代金が負債額に見合わない場合は借金は切り捨てられてしまうことになる。

 倫理的には問題は多いが法律上は許される。たとえば次の判例はどうだろうか。A社は負債25億円を有していたところ,3億円でB社に事業を譲渡した事例だ。裁判ではそもそも事業譲渡はないとして争われた。原審,控訴審とも事業譲渡を肯定した以下は控訴審判決文からの抜き書きだ(東京地裁H23.6.23判タ1397号145頁)。

【事業譲渡と再生の課題について】
 A社は「未納の公租公課も加えると,総額約25億円もの債務を負い,経済的に困窮していたものである。」「近い将来において破綻に至る危険性が高い状況であったということができる。」

 「そこで,本件事業を第三者に譲渡し,その譲渡代金によって控訴人会社の債務を処理する一方,本件事業の譲受人である第三者には同控訴人(A社)の債務を承継させず,本件事業の維持,再生を図るという方法は,本件事業の存続を図る方法として,合理性を有する手法ということができる。」

 
 この事件ではA社は破産などの手続きを行っていない。それどころか,A社は事業を乗っ取られたと言いふらしていたらしい。A社は事業を譲渡したにもかかわらず事業を再開しようとした。事業譲渡の場合,事業の売主が事業を再開したのでは事業がうまく承継されない。

 そこで,法律は事業譲渡があった場合には原則として(当事者の合意がないかぎり)売主は同一事業を行ってはいけないことになっている。これを法律用語では競業避止義務(キョウギョウヒシギム)と呼んでいる。本件でも事業の差し止めが認められている。